自治体による電力小売の動きは全国各地に波及する。地域の民間企業に加えてエネルギー分野の大手企業が参画するプロジェクトも増えてきた。静岡県の浜松市はNTTファシリティーズやNECキャピタルソリューションの出資を受けて、「浜松新電力」を2015年10月に設立した(図8)。
人口が81万人の浜松市は政令都市の中で初めて電力小売事業に参入する。市内のメガソーラーや清掃工場で発電した再生可能エネルギーの電力を買い取って、浜松市の公共施設のほかに民間企業や家庭にも供給する予定だ。地域全体の需給管理はNTTファシリティーズが請け負うことになっている。
全国各地でメガソーラーを展開するNTTファシリティーズは岩手県の北上市でも、自治体と協定を結んで小売事業を開始した。市内に設立した「北上新電力」がメガソーラーや小水力発電所から電力を調達して、市の庁舎や防災拠点に電力を供給する(図9)。
市役所の本庁舎はBEMS(ビル向けエネルギー管理システム)を使って電力の需給バランスを最適化できるようになっている。太陽光発電システムと蓄電池システムに電気自動車も組み合わせて、需要のピークカットや災害時にも電力の供給を継続できる体制だ。
市町村にとどまらず、県が参画するプロジェクトも始まった。神奈川県は湘南エリアを中心に電力の小売事業を展開する「湘南電力」と協定を結んだ。湘南電力は県の補助金を受けて、県内で稼働中の太陽光発電設備などから電力を購入する(図10)。電力の需給調整をエナリスに委託する体制でエネルギーの地産地消を推進していく。
山梨県では東京電力が協力して、再生可能エネルギーの地産地消と企業の誘致を促進する新しい事業に着手した。県と東京電力が共同で設立した「やまなしパワー」を通じて、県営の水力発電所の電力を企業に安く提供する(図11)。水力発電所が供給する13万世帯分の電力を、東京電力の単価よりも1円程度安く供給する予定だ。
対象は県内の中小企業のほか、新規に山梨県に進出する大企業も含む。県の産業振興策に合致する企業を優先的に選んで、再生可能エネルギーを生かした産業の育成を目指す。東京電力は小売の自由化が進む中で供給先を確保できるメリットがある。官民連携によるエネルギー地産地消の取り組みは、全面自由化が始まる4月以降にますます活発になっていく。
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