人口4万人の地方都市が電力小売を開始、2018年に売上14億円を目指す電力供給サービス

自治体によるエネルギーサービスの拡充に取り組む福岡県みやま市が、新電力を設立して小売事業に参入する。全面自由化後は家庭向けに注力して、2018年に6000件の顧客を獲得する計画だ。市内で作る太陽光発電の電力を販売しながら、市民向けのサービスを充実させて電力会社に対抗する。

» 2015年03月26日 15時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 みやま市は福岡県の南部にある人口4万人の小都市で、温暖な気候を生かして果物や野菜の栽培が盛んな地域だ。人口の減少が進む中で魅力あふれる街づくりを目指して、電力を中心に新しいエネルギーサービスを市民に提供していく。市が出資して設立した新電力の「みやまスマートエネルギー」が4月から小売事業を開始する(図1)。

図1 「みやまスマートエネルギー」の事業モデル。出典:みやま市ほか

 みやまスマートエネルギーには市が55%を出資するほか、地元の金融機関などが出資して顧客獲得やサービス開発に協力する体制だ。当初の第1ステップでは公共施設を中心に、夏の昼間など需要がピークになる時間帯に太陽光の電力を安い価格で供給する。2016年以降の第2ステップでは市民が発電した太陽光の電力を活用しながら、家庭向けの小売を拡大してエネルギーの地産地消を推進していく。

 事業計画では1年目から営業利益が黒字になる見通しで、みやま市にとっては市内のエネルギー供給体制を強化できるのと同時に新しい産業の振興策にもなる。4年目の2018年には市民による太陽光発電(PV)の電力を1000件から調達する一方で、6000件の家庭に電力を販売する計画だ(図2)。みやま市の総世帯数は1万3000世帯あり、その半数近くを顧客に獲得することになる。

図2 「みやまスマートエネルギー」の事業計画。出典:みやま市ほか

 電力の小売に加えて市民向けのサービスを充実させる。みやま市は全国の1万4000世帯を対象にした「大規模HEMS情報基盤整備事業」の実施地域に選ばれて、2015年4月から2000世帯のモニター家庭に向けてHEMS(家庭向けエネルギー管理システム)を活用した各種のサービスが始まる(図3)。

図3 「大規模HEMS情報基盤」を活用したサービスの展開イメージ。出典:みやま市ほか

 国が支援して2016年3月までサービスを続けた後は、みやまスマートエネルギーが引き継ぐことになっている。提供するメニューの1つに高齢者の見守りサービスがある。家庭の電力の使用量をもとに異常を検知すると、見守りセンターから近所の住民や地域の民生委員に通報する仕組みだ(図4)。

図4 高齢者見守りサービスの画面と仕組み。出典:みやま市ほか

 このほかにも食事や日用品の宅配から病院の予約・確認まで、タブレット端末やパソコン、スマートフォンで可能になる(図5)。1年間のモニター実験の結果をもとにサービスの改良や新メニューの追加を継続して、より多くの市民に役立つサービスに進化させる方針だ。電力会社にとっては強力な競争相手になる可能性が大きい。

図5 市民に提供する各種サービスの内容と画面。出典:みやま市ほか

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