可視光全域の波長をカバーする「標準LED」を開発、LED照明開発の課題を解消LED照明

産業技術総合研究所物理計測標準研究部門の光放射標準研究グループと、日亜化学工業は共同で、可視光全域をカバーする標準LEDを世界で初めて開発した。

» 2016年02月05日 11時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 「標準LED」とはLED関連製品の開発現場で使用し、基準値を示すものだ。普及が広がるLED照明や有機EL照明などの固体素子照明では、明るさを評価する指標として全光束や色の評価が重要とされている。これらの評価のためには、分光測定により、光の波長ごとの強度を高精度に測ることが不可欠だ。分光測定を高精度に行うには、評価対象の光源を基準となる「標準光源」と比較する必要があるが、これまで、固体素子照明の高精度な分光測定に利用でき、可視光全域をカバーする標準光源は存在しなかった。

 今回、産業技術総合研究所(産総研)と日亜化学工業が開発したのは、中心波長が異なる複数のLED素子と複数の蛍光体を用いて、可視光全域で十分な光強度を持つ「標準LED」である。LEDの製造・開発の現場で、この標準LEDを用いることで、固体素子照明の高精度な特性評価が可能となり、製品開発の加速や性能向上への貢献が期待できるという。

photo 図1 開発した「標準LED」と使用イメージ(クリックで拡大)出典:産総研

LED照明開発で基準を示す重要性

 照明は、家庭における消費電力の約6分の1を占め、省エネを進めるために白熱電球や蛍光灯などの従来照明から、LED照明などの消費電力の少ない固体素子照明への置き換えが進んでいる(関連記事)。そのため、メーカー間で、国際的にし烈な固体素子照明の研究開発競争が繰り広げられており、ユーザーには各製品の性能を正しく知らせることが重要となっている。

 エネルギー効率や色は、照明製品の性能を示す指標で、これらは分光測定により得られるスペクトルから評価される。しかし、固体素子照明は、前面にのみ光が放射されることや、多種多様なスペクトルで発光することなど、従来照明とは異なる特性を示すため、固体素子照明の分光測定に適した標準光源が存在せず、正確な測定が容易ではなかった。

 固体素子照明の分光測定に適した標準光源には、前面にだけ光を放射する特性に加えて、可視光の波長領域(380〜780ナノメートル)全体で十分な光強度をもつ、という特性が求められる。これらの特性を満たすにはLED光源が該当するが、これまで開発されたLEDは、優れた特性のものでも短波長側と長波長側の光強度が不十分であり、標準光源には適していなかった。

 産総研は、照明の明るさの基準である全光束標準や分光測定技術の研究開発を行うとともに、固体素子照明の測定技術の研究開発に取り組み、これらを通じて、高精度なスペクトルの測定・解析技術を培ってきた。一方、日亜化学工業は、世界的なLED開発・製造企業として、品質・信頼性の高いLEDの開発を進めてきたが、これまで以上に高精度な測定・評価技術を求めていた。

 そこで、両者は固体素子照明の高精度な特性評価を実現するため、産総研がもつスペクトルを定量的に精密測定・解析する技術と、日亜化学工業の高度なLED製造技術とを組み合わせ、固体素子照明の分光測定に適用することのできる標準LEDを開発することとした。

 従来の白色LEDでは、420〜720ナノメートル(nm)の波長領域以外では光強度が十分でなく(図2、青破線)、可視光全域で分光測定をするための標準には適していなかった。そこで、今回開発した標準LEDでは、中心波長が異なる複数のLED素子により、380〜430nmの波長領域での光強度を改善するとともに、430nmより長い波長領域では、青、緑、赤の蛍光を発する複数の蛍光体を組み合わせて光強度を改善した。これにより、標準LEDのスペクトルは380〜780nmの波長領域に広がり、可視光のほぼ全ての波長領域で十分な光強度を実現した(図2、赤線)。

photo 図2 今回開発した「標準LED」のスペクトル(赤)と、従来の白色LEDのスペクトルの例(青)出典:産総研

 また、今回開発した標準LEDは、本体の直径が62mm、発光部の直径が12mmであり、発光部の温度を常に一定に保つための温度制御機構を実装している。この機構により、標準LEDの周囲温度に対する光強度の変動を0.01%/度以下に抑えることに成功した。これは、従来の白色LEDに比べ、約20倍の安定性である(従来の白色LEDの変動は約0.15〜0.2%/度程度)。さらに、従来の白色LEDは点灯後の光強度が大きく変動するが、今回開発した標準LEDは、点灯後の光強度がほとんど変動しない。

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