現在のところエネファームや燃料電池車で使う水素の大半は化石燃料で作られている。製造時にCO2を排出するため、必ずしも環境にやさしいとは言えない。今後は海外を中心に未利用のエネルギーから水素を製造する方法に加えて、再生可能エネルギーから水素を製造する技術の開発にも注力する(図9)。
戦略ロードマップでは燃料電池車の普及と同時に水素発電の導入を本格的に開始するために、海外から調達する水素の価格を2030年までに30円/Nm3(ノルマルリューベ)へ低下させる目標を掲げた(図10)。この水準は現時点の水素ステーションで販売している水素の価格(1キログラムあたり1000〜1100円)と同等で、燃料電池車の燃費がハイブリッド車並みになる。
同じレベルの価格の水素をガスタービン発電などに利用した場合には、発電コストが17円/kWh(キロワット時)になる見通しだ。石炭やLNG(液化天然ガス)の発電コストは12〜14円/kWh程度で、その水準に近づく。そうなれば2030年代には発電所の燃料に水素を利用することが期待できる。石油の発電コストは30円/kWhを超えることから、石油火力の代替手段としても水素の利用を見込める(図11)。
ただし水素は常温・常圧では気体の状態だ。海外から大量に調達するためには、効率的に輸送・貯蔵する仕組みを整備する必要がある。すでに技術開発が進んでいる2つの方法を中心に、2030年までに海外の水素製造プラントと国内の利用拠点を結ぶサプライチェーンを構築していく。水素を常温・常圧で液体に取り込める「有機ハイドライド」に加えて、超低温で水素を液化して輸送する技術の開発と実証にも取り組む(図12)。
さらに2040年代には再生可能エネルギーを使ってCO2フリーの水素を大量に製造・輸送・貯蔵できるインフラの整備を目指す。特に太陽光や風力のように天候によって発電量が変動する場合には、電力を水素に転換して貯蔵・再利用できるメリットは大きい。現状では水を電気分解して水素を製造するコストが高いことから、変換効率を引き上げる技術の開発・実証を通じてコストの低減を図る。
政府は再生可能エネルギーから水素を製造するための技術面と経済面の課題を具体的に洗い出すために、2016年度内に国内の主要な設備メーカーや水素供給事業者などの参加を募ってワーキンググループを立ち上げる予定だ。その中で2030年代に向けて取り組むべきテーマを設定して開発・実証フェーズへ移行する。
いよいよ水素社会の実現を目指す国家戦略がさまざまな分野で動き始める。
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