電気の埋蔵金「需給調整技術」、導入のカギは“レジ係”にありエネルギー市場最前線(4/5 ページ)

» 2016年05月19日 09時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

新システムの浸透は「レジ係」に認めてもらえるか

スマートジャパン 実際に現場での苦労など、新たに気付いたことや分かったことはありますか。

草野氏 例えば、食品スーパーだと冷ケースがオープンなものになっており、その冷気を活用する形で温度調整をする場合が多い。しかし、熱変換効率(COP)で考えると冷ケースより空調機器の方が優れており、全ての温度調整を冷ケースで行うよりも空調機器を有効活用した方が、使用電力を下げられる。冷ケースは自動で庫内の温度調整を行っているが入り口近くの冷ケースでは過運転をしている場合が多く、場合によっては霜が付く場合などもある。この霜を取るために人手が取られたりする。空調を併用することでこうした問題を解消できる。

 こうした話をしても現場では余裕がなく成果が不透明なものに労力をかける話にはならない。そこで、まずわれわれ自身が、温度計などを設置し、空調を稼働させて、温度の状況や電気代を毎日計測し、成果があることを証明するところから始めた。こうした取り組みを積み重ねてようやく認めてもらえたといえる。デマンドレスポンスのシステムについてもできる限り現場の負担を減らすために、複雑な仕組みはクラウド側に設置し、現場でのコストや労力は最低限で済むようにした。2015年度の実証では、店舗の初期投資が100万円以下で年間の削減電気代が107万円となり、1年で初期投資が回収できるシステムとなっている。

 食品スーパーの場合、最終的にこうした省エネ系のシステムの価値は、声の大きな「レジ係」のパート従業員に認めてもらえるかどうかにかかっているといえる。そもそも食品スーパーで一番強いのは熟練パート従業員だ。また、最終顧客や品出し担当やバックヤードにいる従業員は、動きまわっているため、店舗の温度環境の変化に気付きにくいが、レジ係は同じ場所にいるため、デマンドレスポンスで抑制がかかった時に温度環境が悪化した場合は、すぐに気付く。こうした従業員に「温度環境が変わらずに電気代をこれだけ下げることができた」と示すことができれば、「有益なシステムだ」ということが伝わるためだ。

本当に価値のある情報は現場にしかない

スマートジャパン 最先端の技術開発の一方で、非常に地道な活動を進めていますね。

草野氏 IoT(Internet of Things)など、流通や製造業などの現場でITを活用しようというような動きが活発化しているが、こうした枠組みは本当に現場を助けるものでなければ受け入れられない。逆に本当に価値のあるノウハウや知見は現場にしかない。こうした現場の声を、受け入れられるまで聞き続けて、それを反映したシステムを構築できたところが京セラの強みだと考えている。現状を見ると売り場面積2000平方メートル前後で契約電力が400kW(キロワット)クラスの食品スーパーチェーンであれば、どこにも負けないシステム提供ができると考えている。

 2015年度の実証では、パナソニックデバイスSNUXの工場などでの自動デマンドレスポンス実証も行ったが、ここでも多くの知見を得ることができている。こうしたノウハウを水平展開し、より多くの業界で有益な形を探っていきたい。技術的にも当然進化させるがボトルネックになっているのはそうした技術ではなく現場のニーズにあると考えている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.