グリーン・低コスト・高性能――リチウム蓄電池を改善蓄電・発電機器(2/3 ページ)

» 2016年06月10日 13時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

電解質と活物質の改善が蓄電池を変える

 今回の研究の目的は3つある。グリーンで低コスト、さらにエネルギー密度(容量)の大きな蓄電池技術を開発することだ。そのカギが共融系液体にある。

 グリーンと何だろうか。「化学の未来はグリーンケミストリーにある」という思想がある。生産から廃棄までの全過程で、生態系に与える影響を最低限に抑え、さらに持続可能でなければならないという考え方だ。蓄電池の電解液は揮発性で有害。グリーンケミストリーに合致しない。

 低コスト化を進めるには、高価な材料をなるべく使わない蓄電池が望ましい。正極のレアメタルはもちろん、後ほど説明するイオン液体も利用しない。

 共融系液体は、一般的な術語ではないものの、身近に起こる現象と結び付いている。2種類の固体を混ぜると、温度を上げていないのに液体に変わってしまうことがある。凝固点降下と呼ばれる現象だ。例えば固体の雪(氷)に固体の塩化カルシウムを加えると、液体に変わる。豪雪地帯で塩化カルシウムを融雪剤として使う理由だ。

 防虫剤として家庭で使われてきたナフタレンとパラジクロロベンゼンは、どちらも常温では白色の固体だ。だが、混ぜて使うと溶け出してしまい、服に汚れが残ることがある。

 今回の蓄電池では、黄土色の三塩化鉄六水和物(FeCl3・6H2O)の結晶粉末と、白色の尿素(CO(NH22)の固体粉末を混合した*3)。どちらも常温では固体だが、混合すると凝固点が−7℃まで下がる。常温では液体だ。この状態を指し示す術語がないため、研究チームは共融系液体と呼んだ。

*3) いずれも安価でありふれた物質だ。蓄電池の材料コスト低減に役立つ。

出発点はイオン液体

 研究チームの目的には、イオンのみからなり、常温近くで液体状態を採る「イオン液体」が役立ちそうだ。イオン液体は可燃性がなく、蒸気圧が無視でき(蒸発せず)、イオン伝導性が高い。いずれも蓄電池の電解質には望ましい性質だ。

 蓄電池関連の研究では、イオン液体にさらに中性分子を加えたDES(Deep Eutectic Solvants:共晶溶媒)と呼ばれる物質の研究が進んでいる。なぜか。

 DESには毒性がなく、生物分解性がある。簡単に用意(調合)でき、材料コストはイオン液体の10分の1程度だ。イオン液体よりもグリーンであり、さまざまな用途、例えばレドックスフロー電池などに使えそうだ。

 現在研究が進んでいるのは、尿素などのアミドとコリンクロリドなどの四級アンモニウム塩を混合したDESだ。溶媒としての特性がよい。

 研究チームは、このような性質から、DESがレドックスフロー電池(関連記事)に向くと指摘している。

エネルギー密度を高めたい

 ただしDESには問題が1つ残っている。電池の体積エネルギー密度(容量)が低いのだ。

 体積エネルギー密度は、電気活性種の密度によって決まる。電気活性種の密度は、電気活性種がDES溶媒にどの程度溶解するかによって決まる。

 これを改善する先行研究もある。遷移金属塩はアミドや四級アンモニウム塩とともにDESとなり、さらに電気活性種を内蔵していることだ。つまり理想的な電池の活物質になりうる。例えば2価と3価の間を容易に移行する鉄イオンだ。

 これまでに分かっていたのは塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)と尿素、またはコリンクロリドの組み合わせを利用すると、融点が9℃または14℃になるということだ。塩化鉄や塩化アルミニウム、塩化スズを塩化イミダゾリウムと混合してもよい。

 先行研究で得られた知見から、研究チームは今回の組み合わせ「三塩化鉄六水和物、尿素」の融点が十分下がることを予測。2対1で混合したときに−7℃の融点を得た形だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.