今回の研究は、レドックスフロー蓄電池に応用する前段階と位置付けることもできる。まずは共融系液体が、蓄電池の活物質として役立つかどうか、活物質の移動を助ける電解質としての機能を十分もっているかどうかを検証する必要がある。そこで、図2に示したようにリチウムイオン電池の正極活物質へ採用し、性能を調べた。
研究チームは、蓄電池セルを試作する前に、理論計算によって性能を推定した。共融系液体を正極活物質に用い、金属リチウム負極と組み合わせた場合、セル電圧は約3.4ボルト(V)。蓄電池セルの重量当たりに蓄えられる電荷(容量)は重量当たり、89ミリアンペア時(mAh/g)、体積当たり、145mAh/cm3となった*4)。
試作した蓄電池セルを25℃と40℃の環境下で測定したところ、初期の放電電圧は約3.4V、容量は141mAh/cm3(40℃時)となった。理論値に近い理想的な動作だと評価している。
*4) 共融系液体の重量・体積当たりの容量を示した。
蓄電池は充放電ごとに性能が劣化しないことが望ましい。
図3は、1回目から20回目までの充放電の様子を描いたもの*5)。電池の容量を100%使う実験ではなく、回数も初期の20回と少ないものの、充放電ごとに特性がほとんど変わっていないことを読み取ることができる。研究チームは、正極の活物質が液体であることがこのような結果を生み出したとしている。
*5) 充放電の実験では、定電流0.5mA/cm2を用いた。
採用した共融系液体の凝固点は−7℃であるものの、蓄電池セルの性能を測定すると、低温時の性能に課題があることが分かった。
先ほどの図3では40℃下の電圧の変化(0.32V)よりも、25℃下の電圧の変化(0.44V)の方が大きい。一定の電荷(電流・時)を取り出したのにもかかわらず、変化が大きくなるということは、容量が少なくなっている可能性がある。
そこで、1回の充電の際の電圧と容量を測定した。図4は、3回目(3サイクル目)の充放電の様子を示したものだ。面積当たりの電流の量を一定にして測定しているため、充放電の電流量と充放電に必要な時間が正比例の関係をもつ。図では下側の横軸に容量(比率)、上側の横軸に充放電時間を示した。
40℃での放電(下の赤線)では、線の右端が0.97に達している。理論容量の97%を放電できたということだ。ところが、25℃での放電(下の青線)は0.6、つまり60%にとどまった。100%充電した蓄電池セルであっても、容量の40%は取り出すことができない。
研究チームは発表資料の中で、今後も共融系液体を用いた蓄電池など、優れた性能を示す実用的な電池開発を推進するとした。低温特性はもちろん、正極に加えて負極でも実証すること、今回の2つの物質以外の組み合わせを見付つけることが、目標に含まれているだろう。
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