水素が変える未来の火力発電、2030年のCO2排出量を減らす次世代の火力発電ロードマップ(4)(3/3 ページ)

» 2016年06月13日 13時15分 公開
[石田雅也スマートジャパン]
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窒素酸化物を抑制できる燃焼方式

 NEDOが推進中の研究開発プロジェクトのうち、大規模な発電所に適用できる50万kW級のガスタービンは三菱日立パワーシステムズが開発・製造を担当する。「水素焚きガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)」と呼び、2020年までに混焼発電用のガスタービンの設計を完了して実証運転を開始する計画だ(図7)。

図7 次世代火力発電のロードマップに合わせた製品開発(画像をクリックすると拡大)。GTCC:ガスタービンコンバインドサイクル、CCS-IGCC:CO2回収・貯留−石炭ガス化コンバインドサイクル。出典:三菱日立パワーシステムズ

 現在のLNG火力で最先端の燃焼温度1700℃級の混焼ガスタービンを開発することが目標で、発電効率は火力発電で最高レベルの60%以上を目指している。高効率化でCO2の排出量を削減できるうえに、CO2フリーの水素を使えば排出量はさらに少なくなる。

 水素発電の実用化に向けた課題の1つに窒素酸化物(NOx)の低減がある。水素焚きガスタービンの燃焼方式には3通りあって、このうち燃料の水素とLNGを燃焼前に空気と混合させる「予混合方式」がNOxの排出量を抑制しやすい(図8)。ただし水素の混焼率は20%程度が限界だ。

図8 水素焚きガスタービンの燃焼方式。NOx:窒素酸化物。出典:三菱日立パワーシステムズ

 一方で燃焼時に燃料と空気を混合する「拡散方式」では水や蒸気を噴射してNOxを低減できるが、その代わりに燃焼温度が下がって発電効率が低下する問題がある。新たに水や蒸気の噴射が不要で、水素の混合率も高められる「分散混合方式」によるガスタービンの開発が始まっている。将来は分散混合方式が水素発電の主流になる可能性が大きい。

 水素発電でCO2排出量を削減するためには、再生可能エネルギーなどから製造したCO2フリーの水素を利用することが望ましい。とはいえ当面は化石燃料で製造した水素や工場の副生水素に頼らざるを得ない。特に海外の燃料産出国で大量の水素を製造することが可能なため、国内までの輸送技術が重要になってくる。

 現在のところ水素を液体に転換して輸送する有力な方法が2つある(図9)。1つは「有機ハイドライド法」で、水素をトルエンと化合させてメチルシクロヘキサン(MCH)と呼ぶ液体に変える方法だ。MCHは常圧でも水素の体積を500分の1に圧縮できる。MCHから水素を取り出す技術の実用化が課題として残っている。

図9 水素輸送技術の現状と課題(画像をクリックすると拡大)。出典:資源エネルギー庁

 もう1つは天然ガスと同様に水素を超低温(マイナス253℃)に冷却して液化する方法だ。水素を800分の1に圧縮できるが、超低温で輸送・貯蔵するための輸送船やタンクの大規模化が課題になる。現状では有機ハイドライド法の実用化が早いとみられる。

 すでに神奈川県の川崎市や兵庫県の神戸市では、海外から輸送した水素を貯蔵して周辺地域に供給する水素サプライチェーンを構築する取り組みに動き出している。LNGと同様に水素が火力発電の燃料として広く使われる日は遠くない。

第1回:「火力発電の最先端技術を2021年までに確立、CO2削減へ開発を加速」

第2回:「石炭火力で発電効率50%に、実用化が目前の石炭ガス化複合発電」

第3回:「2020年代に導入できる火力発電技術、タービン1基で高効率に」

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