火力発電に「容量メカニズム」を導入へ、すべての設備を対象に動き出す電力システム改革(73)(1/2 ページ)

電力システム改革の新たな施策の1つとして「容量メカニズム」の検討が急速に進んでいる。従来の電力量(kWh)を単位に取引する方法に代わって、発電設備の容量(kW)を含めて支払額を決定する新しい制度だ。需給調整に欠かせない火力発電設備の維持・改修・新設を促進する狙いがある。

» 2016年11月02日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

第72回:「電力会社を救済する新制度、火力発電の投資回収と原子力の廃炉費用まで」

 政府が新設した「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」の場で、卸電力市場の活性化に向けた議論が活発に始まっている。電力の安定供給と適正な競争環境を両立させるために、新たに整備すべき市場の枠組みを検討中だ。その中でも火力発電を対象にした「容量市場(容量メカニズム)」の制度設計が先行して進んでいる(図1)。

図1 電力の安定供給・競争市場を実現するための新市場。出典:資源エネルギー庁

 容量メカニズムの創設を急ぐ背景には、再生可能エネルギーの拡大に伴って電力会社をはじめ発電事業者の収益が厳しくなっていく現実がある。大規模な発電所の建設には巨額の投資が必要で、長期にわたって回収できる仕組みが必要だ。従来は電力会社がコストをもとに電気料金を決める総括原価方式のもとで投資を確実に回収できたが、小売全面自由化によって安定した収入を見込めなくなった。

 一方で再生可能エネルギーによる電力が着実に拡大して、火力や原子力による電力の需要は長期的に減少することが確実だ。全国の需給調整を担う電力広域的運営推進機関が事業者の供給計画をもとにまとめた結果では、10年後の2025年度までに火力発電の設備利用率が年を追うごとに低下していく(図2)。

図2 電源別の設備利用率の見通し(事業者の供給計画をもとに算出)。LNG:液化天然ガス。出典:資源エネルギー庁、電力広域的運営推進機関

 発電事業者は火力発電の投資を回収することがむずかしくなり、新設や改修が進まなくなる。既設の発電所の閉鎖も早まる可能性がある。そうなると夏や冬の需要が増大する時期に供給力が不足する恐れが生じてしまう(図3)。

図3 「容量メカニズム」を創設する背景。FIT:固定価格買取。出典:資源エネルギー庁

 国内の供給力は火力発電を中心に水力、原子力の一部、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの電源で構成している。このうち需給調整力が高いのはLNG(液化天然ガス)を燃料に利用する火力と大規模な水力だ(図4)。需給状況に合わせて短時間に出力を調整できるメリットがある。

図4 電源別の需給調整力。出典:資源エネルギー庁

 CO2(二酸化炭素)排出量の点でもLNG火力は石炭火力や石油火力よりも優れていて、今後いっそう重要な電源になっていく。容量メカニズムを創設する最大の意義は、LNG火力の維持・改修・新設を促進することにある。制度を設計するうえでもLNG火力を優遇する仕組みが必要だ。

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