スーパーコンピュータで水力発電所の電力を増やす、東京電力が研究に着手自然エネルギー

東京電力ホールディングスは理化学研究所と共同で、気象予測の精度を高めて水力発電所の効率を高める研究に取り組む。スーパーコンピュータの「京」を使って雨量や河川流量を予測しながら、水力発電所の実績データと組み合わせ、ダムからの水量を最適に制御して発電量を増やす試みだ。

» 2017年02月27日 11時00分 公開
[石田雅也スマートジャパン]

 東京電力ホールディングス(東京電力HD)は国内最大の水力発電事業者で、関東地方と周辺地域に164カ所の水力発電所を運営している。長野県を流れる犀川(さいがわ)を利用する水力発電所が5カ所にあり、その実測データを使って発電量を増やす研究に着手する(図1)。

図1 共同研究を実施する東京電力の水力発電所(上)、対象になるダムの1つ。出典:東京電力ホールディングス、松本市

 5カ所の水力発電所は50年以上も前から運転を続けている。いずれもダムの水を利用する大規模な水力発電所で、発電能力を合計すると9万9800キロワットにのぼる。東京電力HDは理化学研究所(理研)と共同でスーパーコンピュータを利用した最先端の気象予測モデルを適用する考えだ。気象予測には理研が富士通などと共同で開発した世界最高レベルの計算能力を発揮するスーパーコンピュータの「京(けい)」を使う(図2)。

図2 スーパーコンピュータ「京(けい)」。出典:理化学研究所

 水力発電所の運用実績データとスーパーコンピュータによる気象予測モデルを組み合わせると、周辺地域の雨量や河川の流量を高い精度で予測できる。その情報をもとにダムから発電所に取り込む水量を最大化する。試算では最大で年間に1500万kWh(キロワット時)程度の発電量を増やせる見込みだ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して約4000世帯分に相当する。

 理研は最新鋭のレーダーで観測した気象データをスーパーコンピュータで分析することによって、ゲリラ豪雨の発生を予測できる手法を開発済みだ。レーダーが観測する100メートル間隔の気象データを30秒ごとにスーパーコンピュータに取り込む。大量のデータからビッグデータ解析の手法で積乱雲の発生を詳細にシミュレーションして、ゲリラ豪雨が発生する場所を30分前の段階で高精度に予測できる(図3)。

図3 ゲリラ豪雨予測シミュレーション。解像度100メートルのシミュレーション結果は観測(実測)データに近い。出典:理化学研究所ほか

 この解析モデルを河川にも適用すれば、雨量や河川の流量の予測精度が向上する。東京電力HDはダムから発電所に取り込む水量や時間帯を過去の降雨実績などをもとに判断してきた。新たにビッグデータ解析で予測精度を高めることができれば、水量や時間帯を最適に判断して発電量を増やすことが可能になる。

 東京電力HDと理研は長野県内の5カ所の水力発電所を対象に2019年12月まで共同研究を実施する予定だ(図4)。この研究プロジェクトと並行して、東京電力HDはAI(人工知能)を活用して水力発電用のダムを最適に運用する技術開発にも取り組む。最先端のIT(情報技術)を使ってダムから取り込む水量を最大化できれば、全国各地の水力発電所でCO2(二酸化炭素)を排出しない再生可能エネルギーの電力を増やせる。

図4 「生坂(いくさか)発電所」の全景。出典:松本市

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