電力の切り替え率は世界有数、でも複雑なベルギーの電力市場：電力自由化、先進国はこう動いた（6）（2/2 ページ）

[グザビエ・ピノン／セレクトラ，スマートジャパン]

実は非常に複雑なベルギーのエネルギー市場

　ベルギーは政治的に複雑なことで有名であるが、エネルギー市場においても同じことが言える。具体的には以下の通りである。

　まずは発電。これは極めてシンプルである。独占企業であったElectrabel社とLuminus社が最大の発電事業者として国の発電を担っており、高圧の送電オペレーションに関しては別会社であるElia社の1社が国全体の送電事業を担当している。このように発電に関してはすっきり分かりやすい構造となっている。

　しかしながら、配電に関しては複雑で、ブリュッセルには配電事業者が1社、フランデレン地域には2社、そしてワロン地域には6社存在している。このため、同じ電力会社であればフランスならば全国どこでも同じ電気料金であるが、ベルギーは同じ電力会社でも契約する地域によって電気料金は異なる。これは、日本と比較すれば珍しいことではないが、ヨーロッパにおいてはまれで「複雑」とされる。

　さらに複雑なのは、規制ルールである。規制機関が4つも国内に存在しているのである。まず各行政地域に規制機関が1つずつ、そして国レベルで規制機関が1つ、合計4機関というわけである。その結果、地域によって異なる規制ルールが適用されている。

　例えば、ブリュッセル首都圏では、新規顧客を積極的に獲得しようとする小売事業者はいない。なぜなら、ブリュッセル首都圏で適用されている規制によれば、電気料金の支払いを行わない契約者であっても、電気の供給を止めることが簡単にはできない決まりとなっているからである。このような支払いの滞りは、銀行振替による電気料金の支払いよりも、その都度の銀行振り込みでの支払いを選ぶ消費者が多いことに起因している。現在、ブリュッセル首都圏における未払い電気料金の問題は悪化している。

再生可能エネルギーに好意的なベルギー

　今までにフランスをはじめ他国のエネルギー市場についてご紹介してきたが、再生可能エネルギーに対する各国での関心は決して高くなかった。一方、ベルギーは再生可能エネルギーに対して非常に積極的な態度がうかがえる。2002年には再生可能エネルギーの割合がわずか2.8％であったにもかかわらず、現在14％にまでその割合が増えたことを見ればお分かりいただけると思う。山がなく平らなため水力発電の開発が不可能なベルギーの地形的特徴を考えれば、この数字は驚異的といえる。ベルギーは2020年までに再生可能エネルギーの割合を21％までに引き上げる目標を立てている。段階的な原発の放棄を今後補っていくためにも、再生可能エネルギーの果たす役割は大きいといえる。

　発電におけるこの全体的なトレンドは、小売り市場にもその影響が垣間見える。ベルギーでは85％の消費者が、今後風力発電が電源構成の大部分を占めるべきと考えており、再生可能エネルギーを活用した電気料金プランも非常に一般的である。加えて風力発電専門のWase Wind社、Watz社、太陽光発電のElegant社のような電力会社も確実に消費者からの支持を集めている、このような電力会社は、発電所近くの住民に対して電力売買を行っている。

日本のエネルギー自由化はどちらのタイプに？

　北ヨーロッパ、イギリス、ドイツ、オランダと同様に、ベルギーはエネルギーの自由化以降、切り替えがすすみ、いち早く市場が活発化した国の1つであることをご紹介した。ポジティブな例として電力自由化以降どのような変化が起きたかを見るには興味深い国である。

　フランスやスペイン、イタリアといったラテンヨーロッパ（南ヨーロッパ）では、保守的な国民性とエネルギーに関する関心度の低さが、電力会社切り替えのネックとなっている。

　日本が北ヨーロッパタイプになるか南ヨーロッパタイプになるか、興味深いところである。

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筆者プロフィル

グザビエ・ピノン（Xavier Pinon）　セレクトラ（selectra）共同創業者・代表

　パリ政治学院・コロンビア大学にて修士号。東京大学に留学経験を持つ。戦略コンサルタント業務に従事したのち、在学中に立ち上げた電気・ガス料金比較サービス会社セレクトラの業務に本格的に携わり、同社をヨーロッパ最大手に成長させる。現在フランスを中心に欧州7か国でサービスを展開、欧州での経験をもとに2016年5月に日本（セレクトラ・ジャパン：http://selectra.jp/）でのサービスを開始。