深海の熱水噴出域、天然の発電所であることが判明自然エネルギー(1/2 ページ)

海洋研究開発機構と理科科学研究所の研究グループは、沖縄トラフの深海熱水噴出域において電気化学計測と鉱物試料の採取を行い、持ち帰った鉱物試料について実験室で分析を行った。その結果、深海熱水噴出域の海底面で発電現象が自然発生していることを明らかにしたという。

» 2017年05月09日 07時00分 公開
[庄司智昭スマートジャパン]

海底熱水噴出孔は「天然の発電所」

 海底熱水噴出孔は金属イオンと電子を放出しやすい硫化水素や水素、メタンなどのガスを大量に含む熱水が放出されている。熱水が周囲の海水によって急激に冷やされることで、硫化鉱物が沈殿し、海底に鉱床を形成する。

 海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)と理化学研究所の研究グループは、2013年9月に海底熱水鉱床の硫化鉱物が高い導電性を持つことや電極として利用できること、熱水と海水を用いて人工的な発電が可能なことを発表した*)。これにより海底熱水噴出孔が“天然の燃料電池”として機能し、発電現象が生じることが予想されてきた。

*)関連記事:深海でも電気が手に入る、空気がなくても使える燃料電池

 同研究グループは沖縄トラフの深海熱水噴出域において、現場電気化学計測と鉱物試料の採取を行い、持ち帰った鉱物試料について実験室で分析を行った。その結果、深海熱水噴出域の海底面で発電現象が自然発生していることを明らかにした。

沖縄トラフの深海熱水噴出孔 出典:JAMSTEC

 具体的にはJAMSTECの海洋調査船「なつしま」「かいよう」と無人探査機「ハイパードルフィン」を用いて、熱水鉱床表面の酸化還元電位*)の現場計測を行った。

*)酸化還元電位:数値が高いほど電子を受け取りやすく、低いほど電子を放出しやすい。

 沖縄トラフの深海熱水噴出孔にはキノコのような形の硫化鉱物「フランジ」が形成され、キノコの傘の下に熱水がたまっているという。傘の上面の酸化還元電位は、約+49mVを示した。周囲の海水の酸化還元電位(+466±7mV)に比べて低い値を示していることから、硫化鉱物表面が電子を放出しやすい状態であることが分かる。

 同様に別の熱水噴出孔「HDSKチムニー」の酸化還元電位を計測したところ、熱水噴出孔の間近が最も低く、孔から数メートルずつ遠くなるにつれて鉱物表面の酸化還元電位が上昇していく様子が観察できたとする。同研究グループは「熱水と海水を境界する硫化鉱物の厚みが薄いほど、海水側における硫化鉱物表面の電子が放出されやすく、硫化鉱物が厚くなるにつれて電子が放出されにくくなることを示唆している」と語る。

深海熱水噴出孔の硫化鉱物表面の酸化還元電位 (クリックで拡大) 出典:JAMSTEC
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