太陽電池のコストを低減、反射防止膜を不要にする新手法太陽光

大阪大学産業科学研究所は、簡単な溶液処理で反射率3%以下のシリコンウエハーを形成する手法の開発に成功。反射防止膜を形成しない、低コストな結晶シリコン太陽電池の実現につながる成果だという。

» 2017年07月25日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 大阪大学産業科学研究所の研究グループは、10〜30秒の溶液処理によって、反射率3%以下のシリコンウエハーを形成する手法の開発に成功した。このウエハーを利用した反射防止膜を形成しない結晶シリコン太陽電池を作製し、変換効率20%を達成。反射防止膜を形成しない、低コストな太陽電池の実現につながる成果だという。

 シリコンは平たん面では30〜55%程度の高い反射率を持つ。そのため一般的な結晶シリコン太陽電池では、表面に反射による光のロスを抑えるための加工を施している。単結晶シリコン太陽電池ではアルカリエッチングによって形成するピラミッド構造、多結晶シリコンでは酸エッチングによって形成するテクスチャー構造などが用いられる。

 ただし、こうした加工を施しても反射率は10%以上残る。そのため、表面に反射防止膜を形成し、さらに反射率を抑える仕組みになっている。反射防止膜の形成は高価なプラズマCVD装置などを用いるため、太陽電池の製造コスト増の一因となっている。

 研究グループはシリコンウェーハを過酸化水素水(H2O2)とフッ化水素酸水溶液(HF)の混合溶液に浸し、白金触媒体に10〜30秒接触させることで表面に「シリコンナノクリスタル層」を形成する手法を開発した。この層は表面近くではすき間が多く、深くなるとともに少なくなる構造を持つ。屈折率が深さとともに増加するため、原理的に反射がほとんど起こらないという。

従来の技術(左)と今回開発した技術(右)の比較 出典:大阪大学

 ただし、シリコンナノクリスタル層は広い表面積を持つため、光生成した電子とホールが表面で再結合(表面パッシベーション)することによる変換効率の低下を防ぐ必要がある。研究グループは再結合の防止に、リンケイ酸ガラス法(PSG法)という新規の方法を開発した。これにより、単結晶シリコンでも多結晶シリコンでも、3%以下の極低反射率にすることができるという。さらにこの技術を結晶シリコン太陽電池に用いて、反射防止膜を形成しない極単純な構造で20%の変換効率を達成した。

低反射処理後のシリコンウェーハの反射率。アルカリエッチング後の単結晶シリコン(a)、酸エッチング後の多結晶シリコン(b)、開発した手法で処理した単結晶シリコン(c)と多結晶シリコン(d) 出典:大阪大学

 研究グループは、今回開発した技術を適用することで、太陽電池の製造コストを約2割低減できるとしている。

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