「ブロックチェーン」がエネルギー業界にもたらすインパクト「エネルギーテック」のこれから(2/3 ページ)

» 2017年10月03日 07時00分 公開
[江田健二スマートジャパン]

変わっていく私たちのニーズ

 50年前に比べて、世界は非常に身近になった。そして、一人一人が電気に代表されるエネルギーを利用する生活シーンが増えている。自分たちの親の世代と比較すると、エネルギーの活用方法は大きく変わっている。

 2020年の私たちは、今以上に多くのIoTデバイスを持ち、世界中を移動しているだろう。そうなると、より柔軟性の高い電源確保のニーズが高まる。いつでもどこでも気にせず使える電気、わかりやすくいうならば「持ち運べるエネルギー」が必要だ。 

 そのニーズに応えるように、発電分野において集中から分散へいう大きな流れが生まれる。これまでは、1つの大規模発電所から多くの利用者に、一方通行でエネルギーを提供していた。この流れが、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを中心とする大小さまざまな規模の分散された発電所から提供されはじめている。

 世界中を移動しながら電気を利用したいニーズ、さまざまな場所で分散型発電されるエネルギー、この2つの取引をつなぎ合わせるテクノロジーがブロックチェーンになるのである。

 電気の売買が容易にできるようになると日常生活も一変する。外出先でパソコンの充電が足りなくなってしまった場合、今は「すみません」とお願いして、近くで見つけたお店などで充電させてもらうだろう。それが「100円分、電気を売ってください」と購入できる時代になる。自分がどれだけ電気を充電したか(購入したか)がわかることで、販売する場所が増え、あらゆる場所で充電が可能になる。いつでも充電でき、充電した分だけお金を払うということが、ブロックチェーン技術の活用によって一歩前進する。また、太陽光パネルで発電した電力の余剰分を隣の家に直接販売することも可能になるのだ。

 今の私たちの常識では、電気やガスは、世帯ごとで契約して基本料金と利用量に応じた料金を支払うのが普通だ。しかし、この先、電力会社1社のみと利用契約するのではなく、電気を使う分だけ、使う機器ごとにあちこちから購入することも可能になる。そうなると、家族一人一人が異なる電力会社と契約する時代も来るだろう。通信業界の変遷と同じ現象だ。従来は家庭に固定電話が1台だけあり、その基本料金と通話料を支払うというのが一般的だった。しかし、現在は家族の各人がスマートフォンをそれぞれ別の通信会社と契約し、自分に合った料金プランを選ぶことが可能になった。

 ここで「消費者がわざわざ電気を売り買いするニーズがあるのか?」という疑問もあるだろう。しかし、AppleがiPhoneユーザーに「電気もAppleから買ってください。割安で、100%再生可能エネルギーの電気を販売します」と投げかけたらどうだろうか? 購入するユーザーは多いのではないだろうか。

 環境への意識が高い消費者の中には、風力や地熱などの再生可能エネルギーから発電された電気だけを買いたいというニーズが一定数存在する。また、海外旅行者が日本で電気を買いたいという際にも、コンビニやカフェで気軽に電気を買えると便利だろう。

 そして究極のニーズは、「使った分だけ支払いたい」ということである。これは、電気が「基本料金」というものから自由になるということを意味する。屋外で充電した電気は、ブロックチェーンを活用して正確に把握し、支払うことができる。そうなると他の人やお店からの電気の販売や交換(シェア)も進むはずだ。

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