変化する消費と社会、「共感の時代」に求められるエネルギー事業とは何かエネルギー×イノベーションのシナリオ(3)(3/3 ページ)

» 2018年06月12日 07時00分 公開
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料金プラン以外の差別化要素をどこで生むか

 料金プラン以外で考えられる差別化要素が、セット商品である。これには大きく2つの種類が存在する。

 1つは、毎月支払う光熱費、通信費などの料金をまとめるたぐいのものである。使用履歴、支払い履歴などの情報が集約されているため、支払総額の確認、簡便な支払い方法などの変更手続き、支払い方法や付与されるポイント、マイレージが一本化される点が、生活者にとってのメリットになる。

 もう1つは、電気と一緒に家電や太陽光発電設備のような電気設備を貸す、つまりリースにしてセットで提供するパターンである。生活者にとってのメリットは、初期費用なしに新品家電を使用できる点にある。これにより、最新の機能を使った快適な生活だけでなく、家族構成の変化に起因してサイズ変更が必要になる洗濯機・冷蔵庫の交換、引っ越しなどで不要になった家電の解約など、生活ニーズに合わない古い家電を使い続ける必要がなくなる。

 エネルギー事業者は、宅内にある家電の種類の把握、宅内エネルギー需要の想定、生活者とのコミュニケーション回数の増加による接点強化、各世帯に合致したエネルギー料金プランの提案などが可能となる。さらに、IoT家電が普及し、ネットワークにつながるようになることで、リコール製品の検知、家電製品の故障予測による故障前の修理や交換支援ができるようになるため、エネルギーの販売機会を逃さない(故障によるエネルギーが使えない状態がない)という意味で、生活者へのメリットだけでなく、事業者にもメリットがある。

 また、家電を提供する家電メーカーにも、大きなビジネスモデルの変化をもたらす。製品故障を予知して壊れる前に修理や交換できるということが、提供価値につながり、結果、商機を増やすことにつながるのである。さらに、想定使用年数以上の稼働を保証する高価なモーターを搭載するといった壊れない製品をつくるための大がかりな試験・検査のための費用が不要になり、製品デザインや新しい機能といったイノベーション投資に回せるようになることも重要である。

 このようなシナリオで、IoT家電のリースと電気代のセット販売が普及・拡大してくると、自然にエネルギーの販売形態に新たな変化が生まれる。この変化は、IoT家電により、どの家電がいつ、どこで、どれくらい使われたのかがログとして把握できるようになるということで起きる。すなわち、使われ方で課金できるようになるのである。このことは、設備を置いているだけで、仮に使用していなくても毎月支払いが生じるというリースのモデルから、実際に使用した実績だけで課金するモデル、つまり生活実態に合った支払いモデルに変更することができるようになるということである。この場合のエネルギー料金プランとしては、使用回数に応じた一律の値段設定で提供することも分かりやすいが、前述のダイナミックプライシングの考えを取り入れれば、供給側の事情を考慮した時間帯別の料金とすることで、機器の使用価値を供給者と一体となって最適化することも可能になる。

 最終的に生活者が購入するものは、家電使用による機能的な価値(手段)ではなく、そこから得られた快適な室温や、状況に合わせたライティングなど、「住みやすい空間」といった主観的なエモーショナルな価値(結果)になるかもしれない。つまり生活者は、生活の満足度や快適さをどれだけ提供してくれたのかを判断し、対価を支払う事業者を決めるようになる。このような状況では、エネルギー事象者は、例えば、温かい毛布(熱)やキャンドルによる優しいライティング(明かり)、癒し・疲れを和らげるアロマ(空調)、生活を演出する音(音響)の提供といったユーザーニーズに応える、または生活に新たな価値を創出するつまり、エネルギー事業者はエネルギー資源を使わない解決策を提供しなければならなくなるのだ。

 このことは、エネルギー事業者に、エネルギー供給を前提とした一種のプロダクトアウトの発想を捨て、生活者のニーズ起点で解決策を考えるという生活のソリューションプロバイダーに変貌するという大きな変化を求めることになる。この生活ソリューションプロバイダーへの変貌は、本連載の第1回で紹介した3つに類型化した都市モデルの全てで求められることであり、このような事業者は生活イノベーターであるだけでなく、生活者が暮らす地域都市を魅力的にする社会イノベーターとしてビジネスの領域を拡大していくものと考えられる。

 これは、配電領域のパートの最後に提示した配電領域からのイノベーションと協調する形で、より生活者視点で生活者が参加したくなる地域活動や地域貢献、地域イベントをプロデュースすることになる。このことは小売領域の冒頭で示した生活者との「共感」をどう築くかという課題と一致するものであり、小売事業者は、現在も将来も、この課題への取り組みに終始するのである。

小売領域の発展シナリオ(仮設)

終わりに

 ここまで全3回を通じて、エネルギーに関連する社会インフラ課題への取り組みに向けて、これからますます生活に密接する配電領域、小売領域の変化に対するシナリオについて紹介した。今後起こり得る変化は、私たちの生活を大きく変える可能性を秘めており、最終的には多様性という形で豊かな社会の実現に貢献できるとものと考える。ただし、今回提示したシナリオは、確固たる根拠やエビデンスを基に完成形として描いたものではないため、異論・反論があってしかるべきである。

 また、未来の形は1つでなはないため、シナリオも複数あってしかるべきと考えている。各社・各自が、エネルギーの将来像、エネルギーから社会イノベーションを起こすシナリオを主体的に描き、活発に議論することで、それぞれのシナリオを進化させていくことが重要であると考える。

 最後に、今回の連載で提示した内容が、エネルギーの領域を超えた社会イノベーションを起こしていくことに挑戦するエネルギー事業に関わるすべての皆さまの参考となれば幸いである。

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