東京大学らの研究グループが、室温環境で巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)を示す磁性金属の開発に成功。その効果はこれまでの10倍以上で、環境発電や熱流センサーなどへの応用が期待できるという。
東京大学の研究グループは2018年7月、理化学研究所(JST)、米メリーランド大学と協力して、室温で巨大な磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)を示す磁性金属Co2MnGaの開発に成功したと発表した。この材料を用いた新しい発電方式では、低コスト、フィルム化が容易などのメリットがあり、環境発電や熱流センサーなど熱を利用した応用が期待できるという。
工場や自動車から出る熱をはじめ、空調や給湯など家庭から出る熱、太陽や地熱など自然界の熱に至るまで、さまざまな熱が利用されずに存在している。これらの熱を電気に変換して利用することは省エネ社会の実現のため、あるいはIoT社会の自立電源確保のため非常に重要であり、世界中で研究が行われている。その中でも熱電変換素子を用いた熱発電と呼ばれる方法は、タービンなど大型の装置を用いる方法に比べ小型で静音、メンテナンスフリーなどの利点を持ち、さまざまな潜在的用途が考えられる。
しかし、非磁性半導体を用いるこれまでの熱電変換素子は、発電方向が温度差の方向と同じであり、複雑な立体構造となる。このため熱発電システムの大型化や高集積化を行うには製造コストなどに課題があった。一方、磁性体の異常ネルンスト効果を利用する熱電変換素子は、温度差の方向に対して垂直に発電するため、大面積での発電が容易である。しかし、これまでは異常ネルンスト効果が極めて小さいため、熱電として応用するのは難しいとされてきた。
今回、同研究グループが開発したCo2MnGaは、室温でこれまでの最高値の10倍以上大きな異常ネルンスト効果を示し、熱電応用への可能性を示した。広い温度範囲をカバーするため、さまざまな温度の熱源で発電が可能であり、製造コストが安く、無毒な材料でできており、耐久性、耐熱性にも優れるため、さまざまな場所で利用可能という。具体的には10ccの体積で約100µW(マイクロワット)以上の発電が可能で、この値は腕時計や熱流センサーなどへ利用するのに十分な値としている。
未利用熱を電気に変換するという試みは長い間世界中で行われてきたが、熱電変換材料の毒性やコストの高さなどさまざまな問題点のため広く普及するには至っていない。同研究は異常ネルンスト効果という新しい原理に基づく熱電変換を可能とするもので、無毒・廉価・耐久性など既存技術にはなかった特性を持っており、今後さらなる研究により、高出力化、薄膜化、低コスト化などにより実用につながることが期待されるとした。
実際に実用化・商品化が実現した際には、ボイラーやエンジンの排熱からの発電をはじめ、給湯器や体温などの微量な排熱を無線やセンサーの電源として利用できる可能性があるとしている。
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