次世代太陽電池につながる、ビスマス系の高性能光応答素子の開発に成功太陽光

大阪大学の研究グループが、価格、低毒性、安定性に優れた硫化ビスマスの成膜プロセスを開発し、高性能光応答素子の作製に成功。次世代太陽電池材料の開発につながる成果という。

» 2018年10月09日 09時00分 公開
[スマートジャパン]

 大阪大学の研究グループは2018年9月、JST戦略的創造研究推進事業で価格、低毒性、安定性に優れた硫化ビスマスの成膜プロセスを開発し、高性能光応答素子の作製に成功したと発表した。次世代太陽電池材料の開発につながる成果としている。

硫化ビスマスの写真。無機半導体で、黒〜灰色の粉末。ビスマスは元素周期表で鉛のすぐ右に位置している。原子量の大きな重金属だが、毒性は鉛に比べて格段に低いとされている。しかし硫化ビスマスは粉末のままでは不溶で、素子は作製できない。 出典:大阪大学

 実用化されている太陽電池や光検出器の光電変換材料の多くは、高価で有毒な元素を含んでおり、安価で低毒な新規材料の開発が強く求められている。しかし、素子の性能を評価するには均一で平坦(へいたん)な薄膜を作製する必要があり、1つの候補材料だけでも成膜方法の開発に数年かかることもある。そのため、多くの材料を1つ1つ検討していくには膨大な時間と労力を要していた。

 研究グループは、粉末でも簡便に光電気特性を評価できるマイクロ波分光法を用いて材料を探索した。200種類以上の材料を評価したところ、硫化ビスマス粉末が高い性能を示すことを見出した。しかし、硫化ビスマスは溶媒に溶けにくい粉末材料であり、このままでは素子に応用することはできなかった。

 そこで、研究グループではビスマスを含む化合物と硫黄を含む化合物を前駆体とする溶液調整の検討から始めた。複数の前駆体と溶媒を試した結果、プロピオン酸を溶媒として前駆体をスピンコートし、熱処理すると、平坦で均一なアモルファス性の薄膜が形成できることを見いだした。続いて、希釈した硫化水素ガス雰囲気下で熱処理すると硫化・結晶化が起こり、光電気特性と膜平坦性を兼ね備えた高品質の硫化ビスマス薄膜を形成することができた。

 作製した硫化ビスマス薄膜は、肉眼で見ても、原子間力顕微鏡で観察しても、優れた平坦性を示し、従来の成膜法と比べて結晶のサイズが大きくなった。ビスマスと硫黄の割合が理想的な2:3に近いことも確認でき、さらにビスマスと硫黄の結合が層構造を形成して基板に平行に積み上がっていることも分かった。

 この新規プロセスでも、前駆体の濃度、スピンコート回転数、熱処理温度と時間、硫化水素ガスの流量など、多くの条件を最適化する必要があった。ここでもマイクロ波分光法で迅速・安定に評価することによって、最小労力でプロセスを最適化した。このように同研究では、マイクロ波分光法を活用した評価法を基軸とした材料探索・プロセス開発という、独自の開発手法の有効性を示すことができた。

 新たに開発したプロセスでは、多結晶形成に関わる核生成と結晶成長を独立したプロセスに切り分けることで、それぞれを最適化することに成功した。その結果、従来のプロセスで作製した硫化ビスマス薄膜に比べて、素子の光応答性能を6倍〜100倍以上向上させることができた。作製した素子は、大気中・室内で3カ月放置した後も性能を維持しており、長期安定性にも優れているという。

硫化ビスマス薄膜を用いたフォトレジスタ素子(左)とその性能比較 出典:大阪大学

 今回は硫化ビスマスに特化して成膜法を開発したが、同様の開発プロセスが他の硫化物(カルコゲナイト)にも適用できる。例えば、硫化モリブデンや硫化タングステンは、優れた電気特性を持つ層状化合物として基礎科学的にも近年注目を集めている。ビスマスを含む低毒性化合物太陽電池材料も探索されており、開発した手法の適用が期待される。

 研究グループは、今後も超高速スクリーニング法を駆使し、さらに新規プロセスを他の材料にも適用して、優れた次世代太陽電池材料を開発する予定だ。

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