「パリ協定」以降の企業の気候変動対策について解説する本連載。第3回は代表的な気候変動イニシアチブである「SBT(Science Based Target)」の認証取得に向けたポイントについて解説する。
第1回「世界で広がるESG投資、企業も気候変動対策を無視できない時代へ」
第2回「気候変動対策の“主役”は、なぜ国から産業界へシフトしているのか」
本稿では、2015年に成立した「パリ協定」以降における企業の気候変動対策の動きについて概説し、各種イニシアチブの紹介や、それらが設立に至った背景、そして実際の企業の動きについて実例を交えて紹介していきたい。その上で、日本企業が具体的にどのようなアクションを取り得るべきか、どのような対外発信を行い得るのかを考えていきたい。
前回は気候変動対策の主役が国から企業に重心が移ってきた背景として、パリ協定前後の歴史的な動きを解説し、パリ協定が定めた2℃目標を達成するための企業の自発的な取り組み(イニシアチブ)であるSBT(Science Based Target)の概要を説明した。今回は引き続きSBTについて、特に認定取得に向けた手順やポイントについて解説する。
SBTやCDP回答などの気候変動イニシアチブ対応を行う上で最初のステップとなるのが、自社のGHG(温室効果ガス)排出量を測定することである。これらのイニシアチブでは排出量の算定と報告の基準として「GHGプロトコル」※1を用いている。このGHGプロトコルでは、GHG排出量をScope1、2、3と3項目に分類している。
※1 米国のシンクタンクである世界資源研究所(World Resources Institute:WRI)と世界環境経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)によって1998年に設立。
Scope1は、例えば自社の工場に設置したボイラーで灯油や都市ガスを燃焼するなど、自社の活動によって直接排出したGHGが含まれる[セメントやソーダ石灰ガラスなどの製造事業者は工業プロセスによる直接排出(非エネルギー起源CO2)も算入する]。Scope1については、燃料転換や製造工程の見直しなどによって排出量の削減が可能になるだろう。
Scope2は、主に購入した電力(および熱・蒸気)の使用による排出を対象とする。オフィスでは、照明や空調、コピー機などで電力を消費しているが、当然のことながらこれらの機器がGHGを排出しているわけではない。GHGは、発電所(主に火力発電所)で排出されている。つまり、自社の事業のために購入するエネルギーによって間接的に排出されるGHGを対象としているため、Scope2は「間接排出」とも呼ばれる。
Scope2は、省エネを行ったり再エネ電力を販売したりする小売事業者から電力を購入することにより、排出量を削減できるだろう。大企業の多くでは、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)によって、Scope1および2についての算定・報告は既に行われていることが多いが、その場合これらのデータをCDP報告などでも活用することが可能である。
一方、Scope3は、自社の直接/間接の排出を除いた事業活動におけるバリューチェーン全体の排出を対象とする。例えば、サプライヤーの原材料調達や輸送、サブコントラクターの部品製造、完成した製品の輸送、消費者の製品使用、廃棄、従業員の出勤や出張など、自社が直接排出に関わらない排出量を対象とする。
GHGプロトコルでは、下表のように、Scope3の対象を15のカテゴリーに分割している。バリューチェーン全体におけるCO2削減の選択肢を大きく広げる意味でも、Scope3を把握することは重要である。
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