“自己修復”する電極材料を新発見、蓄電池の高寿命化に期待蓄電・発電機器

東京大学の研究グループが、電力を蓄えることにより構造を修復する「自己修復能力」を持つ電極材料を発見。充電を行うごとに自己修復を繰り返し、性能が落ちないため、電池の長寿命化への貢献が期待できるという。

» 2019年05月24日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 東京大学の研究グループは、電力を蓄えることにより構造を修復する「自己修復能力」を持つ電極材料を発見したと発表した。この電極材料は充電により安定な構造に変化するため、充電を行うごとに自己修復を繰り返し、性能が落ちないため、電池の長寿命化への貢献が期待できるという。

 二次電池の電力貯蔵は、電極材料からイオンを脱離することで行われ、多くのイオンが電極材料から脱離すると多くの電力を貯蔵することができる。しかし、一般に利用される電極材料は、多くのイオンが脱離すると不安定化して構造が変化し、性能が大幅に低下することが知られている。この性能劣化は、電池の寿命を短くする原因となるため、二次電池の電力貯蔵能を制限する要因だった。

 今回、東京大学の研究グループは、電極材料Na2MO3(今回はM=Ru)を充電(ナトリウムイオンの脱離)すると、積層欠陥と呼ばれる構造の乱れが徐々に消失し、完全に充電すると全く構造の乱れが無い状態まで自己修復されることを発見した。

 実験ではまず充電を始める前に層状構造をした「Na2RuO3」の状態について、X線回析線を測定した。この状態では、ブロード化した回析線となり積層構造に大きな乱れ(積層欠陥)が存在していることが分かった。その後、充電を行っていくと回析線は徐々に鋭くなり、積層の乱れが自発的に消失することが分かった。充電と放電を長い期間、繰り返し行った場合でも自発的な自己修復が生じ、ほとんど性能が劣化しないことを確認したという。

従来材料と自己修復材料による構造修復の違い 出典:東京大学

 さらに研究グループは放射光X線回折を用い、充電過程における構造変化をさらに詳しく調べた。その結果、自己修復現象にはNaイオンが脱離した後に生じる空孔と、構造中に残存するNaイオンとの間で生じる「強いクーロン引力」が大きな役割を果たしていることを突き止めた。イオンと空孔が強く引き合うことによって、乱れのない構造に自己修復されるという。

 今回発見した現象は、従来の電極材料で生じる状況とは全く異なる、新しいものとしており、イオンと空孔のクーロン引力を導入することでさまざまな電極材料において自己修復能力が発現し、二次電池の長寿命化に対する貢献が期待できるとしている。

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