独自のP2P基盤で“再エネと企業をつなぐ”、みんな電力が描く新たな電力流通の在り方とは?自然エネルギー(2/3 ページ)

» 2019年11月18日 07時00分 公開
[廣町公則スマートジャパン]

発電側と需要側、「産地証明」がもたらす双方へのメリットとは?

――実際に発電所を選んで電気を買うには、どうしたら良いのでしょうか。

大石氏 法人向けの電力メニューの一つ「ENECT RE100プラン」として提供しています。このプランには、2019年11月時点で約300カ所の再エネ発電所がラインアップされており、希望の発電所を選んで、そこで発電した電気の供給を受けることができます。

――電力需要家である企業にとってのメリットを、具体的に教えてください。

大石氏 まず、電力のトレーサビリティ(産地証明)が保証されるので、自社で使う電気がどの発電所由来のものなのかをアピールすることができます。例えば「農業との両立を目指す太陽光発電所から電気を購入しています」などとうたうことができるので、環境意識の高い顧客層へのメッセージ、地域社会・取引先へのPRになるでしょう。ESG投資などの観点から、企業価値の向上にも貢献します。

 最近では、雇用対策として役立っているという声も多く聞かれます。ミレニアム世代の学生は、企業のサステイナビリティにつながる活動をよく見ているので、どこの電気を使っているのかにも関心が寄せられているようです。「福島の太陽光発電所の電気を買って、震災復興に貢献している」ということが、就活生の心に響いたようだとの話もありました。

――発電所側にも、何かメリットがありますか。

大石氏 電気を売る側にとっても、自分たちの電気が、どこにどれだけ売れたかが分かるのは大きなメリットです。今日では、投資家が発電事業者を評価する際にも、その電気がどう扱われているのかがチェックされます。環境への取り組みが評価されている会社、例えば丸井やパタゴニアに供給しているというと、発電所のファイナンスが有利になったり、ESG投資家からの評価が高まったりする場合も少なくありません。電気をどこに供給しているかは、経営の安定化にも直結するテーマなのです。

好きな企業に供給できる、独自の「卒FIT電気」買取サービス

――みんな電力でも卒FIT電気の買取サービスを始めたとのことですが、その特徴は。

大石氏 2019年11月1日より、FIT買取期間が満了する住宅用太陽光が出てくることを受けて、卒FIT電気の買取サービスを開始しました。ここでも、私たちは「顔の見える電力」にこだわり、他にはないプランをつくりあげました。電気の供給先を選んで売ることができる「顔の見えるPtoP卒FITプラン」です。

 これまでは需要家が発電所を選んで電気を買える仕組みを追求してきたわけですが、「顔の見えるPtoP卒FITプラン」は個人が自宅で発電した卒FIT電気を企業の需要とマッチングさせるものとなっています。つまり、卒FITを迎えた個人が、特定の企業を選んで電気を供給することができる全く新しい仕組みなのです。これも、先ほど話した電力流通プラットフォーム「ENECTION2.0」によって可能となったもので、発電と需要を厳密にひも付けることのできる最新のブロックチェーン技術が生かされています。

「顔の見えるPtoP卒FITプラン」のイメージ 出典:みんな電力

――卒FIT電気の供給先には、どんな企業があるのですか。

大石氏 卒FIT 電気の供給先には、再エネ利用に積極的なRE100 企業や、事業や商品が自分の好みにあう企業・団体を、ラインアップの中から自由に選ぶことができます。売電額に応じて、その企業・団体から返礼品を受け取ることができるのも当プランならではの特徴です。

 2019年11月現在、「顔の見えるPtoP 卒FIT プラン」への参加企業・団体は、TBSテレビ、TBSラジオ、丸井グループ、三菱自動車工業、パタゴニア日本支社、横YMCA、福祉楽団、大地を守る会、ステップアップ塾の9社で、今後随時追加予定となっています。

――卒FITの家庭にとって、このプランのどんなところが魅力なのでしょうか。

大石氏 卒FITを迎えた方は、発電した電気の売電先をこれまで通りの電力会社とするか、別の新電力会社にするか検討しなければなりません。その際、環境に配慮したサステナブルな取り組みをしている企業に使ってほしいと思う方は少なくないのではないでしょうか。例えば「我が家でつくった電気が、大地を守る会で使われている」ということを自慢に感じてくださる方もいるでしょう。私たちのプランは、そうしたニーズに応え、最終需要家まで選べるものとなっているのです。

 みんな電力では、卒FIT電気をたんに電気としてではなく、新しい電気のあり方を象徴するものと捉えて、このサービスを開始しました。これまで電気の消費者でしかなかった個人が、電気の生産者にもなり、自分の好きなところに電気を供給することができるようになるのです。当社が企業理念として掲げる「みんなで電気を作り、みんなで電気を選ぶ」社会の実現に向けた、新たな一歩になるものとも考えます。

――卒FIT電気の買取単価はいくらなのでしょうか。

大石氏 「顔の見えるPtoP 卒FITプラン」は、買取価格にも当社ならでは仕組みを取り入れています。基本の買取価格は、各エリアの大手電力会社と同額の設定ですが、「顔出しOK」の方には、それぞれに「+5円」を上乗せして買い取るというものです(先着500件まで)。上乗せ後の買取価格は、東北電力エリアで14円、東京電力エリアで13.5円、関西電力で13円など業界最高水準です。

――卒FIT電気の供給を受ける企業にとってのメリットは何でしょうか。

大石氏 卒FIT電気は、RE100認証においても、再生可能エネルギーと認められるものです。FIT電気のように、再エネと見なしてもらうために非化石証書などの証書を合わせて購入する必要はありません。卒FIT電気の供給を受ける企業は、自社の再エネ比率をダイレクトに高めることができるのです。

 さらに、卒FIT電気の供給者である個人と、強固な関係を築くことができます。顔出しOKで、文字通り「顔の見える電力」を売ってくれる方なら、その企業を応援してくれていることは間違いないでしょう。その人の電気を少し高く買い取ったとしても、ファンになってくれるのであれば企業としては大きなメリットです。

 例えば「自分の電気を丸井が買ってくれている」と思えば、「買い物は丸井でしよう」という気にもなるはずです。あるいは、2020年中に店舗やオフィスで使う電気を100%再エネに切り替えることを目指すパタゴニアの取り組みに、自分の卒FIT電気を役立てたいと思う人もいるでしょう。

 当社のプランを使って日本で初めての再エネ100%ラジオ局となったTBSラジオは、土曜日をクリーンサタディとして「この時間は○○発電所の電気でお届けしてます」と、視聴者に伝えています。今後は、個人の卒FIT電気も使われることになり、「○○さんの電気でお届けしています」とアナウンスされるかもしれません。そうなったら、その人はますますTBSラジオを聞くことになるでしょう。電気をきっかけにして、企業と個人の関わり方が変わっくる、そこにはきっと、これまでにないさまざまな価値が生まれてくるの思うのです。

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