さらに設備の導入件数が増えるにつれて、作物がうまく育たないという事例も増えてきました。一時転用許可の3年更新を迎えた設備が1000件を超え、農業委員会への一時転用許可更新の時に作物の見直しや営農の改善を指摘され、それに対応する「農業の立て直し」の相談が相次いでいます。この立て直しに当たっては、単に作物を転換すればいい、というわけにはいかない事例がどうしても出てきてしまうのです。
その理由は、野立て架台の支柱を伸ばしただけのアレイ式架台で、遮光率の高さや日照のムラにより、選べる作物の制約が大きいことなどです。水田でも畑でも、20年やそれ以上の事業を行っていくと考えれば、市況の変化によって作物を変更することは十分にあり得ますから、それに対応できる柔軟な設備設計が大切です。実際、私が運営するアグリ・エナジー1号機では、年間で20種類以上の作物を支柱で区画分けして育てています。常に試験栽培を行うことで、将来的な作物の転換にも備えているのです。ソーラーシェアリングの設置数が増え始めた2015〜2016年の事業が更新時期にかかりはじめたこと、台風による設備の被害が生じたことで、2019年は「ソーラーシェアリング事業の適正化」が注目された年だったと言えるでしょう。
2021年度に施行されるFIT制度の抜本見直しに向けて、2019年はその議論が本格化した1年でもありました。太陽光発電では、2021年度には全量FITがなくなりFIPへ移行していくことが業界内部でも予想されており、私も2020年度は突拍子もない制度変更はないだろうと考えていました。
しかし、そこに冷や水を浴びせたのが「小規模事業用太陽光発電」というカテゴリでくくられた、50kW未満の太陽光発電に対するFIT制度の扱いの変更です。突如として2020年度から自家消費要件を課すという制度案は、地上設置型が多数を占める10kW以上50kW未満の低圧太陽光発電市場を、事実上強制的に終了させることとなることは疑いありません。経済産業省・資源エネルギー庁による、「低圧規模の地上設置型太陽光発電は退場させる」という従来からのメッセージを、より強く反映させた措置と言えるでしょう。
その中で、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)は「地域活用電源」というカテゴリの中で、低圧規模であっても例外的に全量FITが2020年度も継続される要件設定が行われました。その条件として「農林水産行政の分野における厳格な要件確認」を求め、ソーラーシェアリングの一時転用許可における、いわゆる「10年許可」の対象事業については、FIT適用に際して自家消費を必要としなくなったのです。この措置の背景には、ソーラーシェアリングが持つ地域貢献性や、電源としての政策横断的な価値が経済産業省・資源エネルギー庁でも認められたと言えます。
FIT制度の抜本見直しに関する議論が進む中で、ソーラーシェアリングがこのような整理をされたということは、その先の制度運用の中でも地上設置型の太陽光発電とは異なったカテゴリになっていく可能性を感じさせます。ソーラーシェアリングは、再生可能エネルギーに求められる地域との共生という側面を、分かりやすく体現できる事業あることが評価されたのだと思います。ソーラーシェアリングのFIT制度における取り扱いが変わってきたことは、2019年のトピックであるとともに2020年も注目されるテーマになるでしょう。
後編となる次回の原稿では、2020年の日本の太陽光発電市場の展望とともに、今後のソーラーシェアリングをとりまく事業環境の変化と見通しについて解説します。
※編集注:後編はこちら
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.