一般送配電事業者に対して一定期間ごとに収入上限を決める「レベニューキャップ制度」。電力・ガス取引監視等委員会の「料金制度専門会合」では、同制度において昨今の物価上昇を反映できるようにする制度改正に向けた検討が行われた。
電力の安定供給確保や再エネ電源大量導入による脱炭素化の実現に向けては、送配電ネットワークの適切な維持・拡充が必要である。このため、一般送配電事業者による送配電事業の「効率化の徹底」と「必要な投資促進」を両立させる託送料金制度として、2023年度からレベニューキャップ制度が開始された。
レベニューキャップとは、収入の上限を定め、その範囲で柔軟な料金設定を認めることにより、一般送配電事業者に効率的な経営を行うインセンティブを与えることを目的とした制度である。
レベニューキャップ制度では、何を収入上限に算入可能であるかが定められているが、制度開始前の検討時点では物価変動は極めて小幅であったため、その第1規制期間(2023〜2027年度)では期中の物価変動の反映は認められていない。
しかしながら近年は、労務費単価や物価、金利等、さまざまなコストが急速に上昇しており、一般送配電事業者の採算性は大きく悪化し、その安定的な事業運営が脅かされ、電力の安定供給確保やGXの推進に支障を来すことが懸念されている。
このため、電力・ガス取引監視等委員会の「料金制度専門会合」では、レベニューキャップ制度における物価等上昇の反映(期中調整)に向けた制度見直しを行うこととした。
レベニューキャップの第1規制期間(2023〜2027年度)は、2017〜2021年度の5年間を費用実績の参照期間としている。
物価や労務単価を示す公的な指標を見ると、2021年度を起点とした「建設工事費デフレーター(電力)」、「国内企業物価指数(総平均)」、「公共工事設計労務単価(全国、全職種)」はいずれも110%を超え、大きな上昇率を示している。
なお、送電設備の主要材料である鉄鋼の国内企業物価指数は160%、電線等の材料となるアルミ等の非鉄金属は172%(いずれも2017年度基準の2024年度実績)であるなど、物品により指数の上昇率は大きく異なる。
送配電網協議会では、これらの物価等の上昇による影響額を試算しており、一般送配電事業者(一送)10社合計で2023年度は957億円(影響率≒上昇率4.9%)、2024年度は1,749億円(影響率9.6%)に上ると報告されている。なお、「投資」項目の一部が減価償却費ベースで費用化されることを踏まえ、費用換算後の影響額に着目している。また、「広域系統整備計画」対象工事等の、他の審議会で物価等の変動影響を個別に確認している費用は今回の試算の対象外である。
物価等上昇による影響率(2024年度)は、費用項目が7.4%であるのに対して、主に送配電網の設備拡充、更新工事等に関連する投資項目は17.2%と大きく、費用項目と比べて影響が大きいことが明らかとなった。
さらに、再エネ電源の系統接続や鉄塔等の高経年化対策工事、次世代投資に伴うCAPEX・次世代投資費用(減価償却費等)は、第1規制期間の後年度にかけて増加すると想定されている。他方、第1規制期間では多くの一送で電力需要の逓減を見込んでおり、想定収入(需要×単価)は後年度にかけて減少すると想定されている。
このような費用増加と収入減少のダブルパンチにより、多くの一送において構造的な利益の逓減が予測されている。
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