電力小売市場の活性化を担う「ベースロード市場」、低調な約定率とエリア格差への対応策は?法制度・規制(1/3 ページ)

新電力が大型水力・火力・原子力などのベースロード電源にアクセスしやすくすることを目的にスタートした「ベースロード市場」。2019年7月から運用が始まったが、市場分断による価格差や低い約定率が課題として指摘されている。今回はこのベースロード市場に関する今後の方向性が議論された第64回「制度検討作業部会」の内容を紹介する。

» 2022年05月16日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 新電力によるベースロード電源(BL電源)へのアクセスを容易にすることを目的とし、2019年7月に開始されたベースロード市場(BL市場)。旧一般電気事業者や電源開発等はこの市場に対して、一定量以上のBL電源(石炭火力・大型水力・原子力・地熱)を供出することが求められている。

 BL市場は一種の先渡取引市場であり、新電力は入札により決まる年間固定価格で現物のBL電力が購入可能となる(旧一電は自エリアが含まれる市場以外で買入札が可能)。ほぼ同じ目的を持つ「常時バックアップ(JBU)」からBL市場に移行することにより、JBUは廃止することが予定されている。

 BL市場は固定価格での取引という性格上、価格変動リスクを回避する重要なヘッジ手段の一つとして位置付けられているものの、実際には市場分断による市場間値差が生じることにより、価格が変動してしまうことが課題として指摘されている。

図1.ベースロード市場の年度別約定量 出所:JPEXの公開データをもとに筆者作成

ベースロード市場の概要と直近の取引状況

 BL市場は受け渡し年度の前年度に、年4回(7月、9月、11月、1月)のオークションが開催され、通常の先渡市場と同様に、JEPXのスポット市場を通じて受け渡しが行われる。連系線制約によるスポット市場の分断を考慮して、市場範囲は「1.北海道エリア」「2.東日本(東北・東京)エリア」「3.西日本(中部・北陸・関西・中国・四国・九州)エリア」の3つの市場が設定されている。

 2021年度に合計4回開催されたベースロード市場(BL市場)の総約定量は65.5億kWhと、2019年7月の制度開始以来、最大となった(2022年度受渡し)。これは新電力の年間販売電力量1530億kWh(沖縄を除く)の4.2%に相当する量である。しかしながらBL市場の2021年度売り入札総量2283億kWhであり、約定率でみると3%程度とまだ低水準であることがわかる。

図2.BL市場 約定価格の推移 出所:制度検討作業部会

 BL市場では取引活性化策の一つとして、JEPXに対する預託金が従来の3%から1%へと引き下げられた。その結果、買い手事業者数は2020年度の59社から、2021年度には96社へと増加した。

 このように買い手事業者が増えているものの、約定率が伸び悩む大きな要因の一つとなっているのが、売り手と買い手の価格目線の乖離が大きいことだ。

 2021年度オークションの第1〜2回では、売札と買札の平均価格は3.3〜3.6円/kWh程度(約3割)離れていた。しかし、第3回ではこの差が2.35円/kWh(約2割)まで縮小したことにより、約定率は17.8%に上昇している。

図3.入札価格(売り/買い)の分布イメージ

 BL市場では燃料費調整条項(燃調)が措置されていないため、BL市場の売り手である旧一電等は、将来的な燃料価格の変動をあらかじめ売り入札価格に織り込む必要がある

 足元ではロシア・ウクライナ情勢の緊迫化により世界的に化石燃料価格が高騰している。第1〜2回のオークション時点では、売り手側が見積もるこうした燃料費増加のリスクと買い手側の目算に差があったが、その後、徐々に買い手側の価格目線が上昇したため、第3回の約定率の上昇につながったとみられる。

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