「水素社会」の普及・実現に向けた動きが加速する中、企業は今後どのような戦略を取るべきなのか。その示唆となる国内外の情報をお届けする本連載、最終回となる今回はグローバルな地政学リスクを整理し、水素輸入国になると想定される日本での水素の「安定調達」戦略を考察する。
各国の水素ビジネス関連動向を把握したい企業のニーズに対し、水素ビジネスのグローバルでの動向、諸外国の先進事例や日本でのビジネス状況、実装課題などを紹介し、他国から得られる示唆を解説してきた本連載。水素ビジネスを進める上では、エネルギー安全保障の確保が大原則であることから、最終回となる今回は、調達候補国/地域やグローバルで抱える地政学リスクを整理し、水素の輸入国になると想定される日本での水素「安定調達」戦略を考察する。
日本では、2030年に最大300万トン/年、2040年に最大1,200万トン/年、年2050年に最大2,000万トン/年の水素(アンモニア含む)導入目標を立てている。これらの導入量を達成するためには、国内での製造のみならず海外からの輸入が必要だ。水素は、非産油国であっても再生可能エネルギーが豊富な国であればグリーン水素を製造できるように、従来の化石年燃料に比べると地理的偏在性が小さい。それゆえに、より多くの国/地域からの調達が検討の俎上に載ることになるだろう。
検討にあたっては、低コストであることが優先順位の高い項目として挙げられるが、水素がエネルギー安全保障に関わるという特性上、安定調達可否の観点も極めて重要である。よって、ここでは水素輸入候補国/地域からの調達ルートに潜む地政学リスクを整理する。
なお、個別企業が水素調達戦略を検討する際にはミクロ的観点、つまり、国/地域における企業レベルでの水素戦略の方向性、製造方法によるコスト・水素分類や、輸送の際に志向する水素キャリアなどを個別に評価する必要があるが、本稿では、グローバルでの水素調達に対する全体像をつかむことを目的として、マクロ的観点で国/地域における水素需給および調達ルートに潜む地政学リスクを解説することとする。
図1に輸入候補国/地域を示す。再生可能エネルギーが豊富な国であればグリーン水素を製造できるため、アメリカ、オーストラリア、中東諸国、チリ、南アフリカなどが水素を輸出産業として育成することを国家単位で計画している。
一方欧州は、域内製造計画だけでは需給ギャップが生じるため、日本同様に域外から輸入する方針を立てている。また、東南アジアにおいては、水素需給に関するレポートや国家としての方針が現時点で未公表の国が多く未知数の部分が大きいものの、既にマレーシアから日本への水素輸入プロジェクトが公表されているものもあり、今後同様の検討が増える可能性がある地域である。
これらのことから、今後グローバルにおける水素貿易トレンドは、日本と欧州が輸入マーケットの中心になると筆者は考えている。したがって、ここでは欧州を除く国/地域を日本の輸入候補国/地域としてリスクを考察する。
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