発電効率70%以上の燃料電池が実現可能に、産総研らの研究チームが成果蓄電・発電機器

横浜国立大学、産業技術総合研究所、宮崎大学の共同研究グループが、発電効率70%以上のプロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)を実現可能であることを明らかにした。

» 2023年10月11日 07時00分 公開
[スマートジャパン]

 横浜国立大学、産業技術総合研究所、宮崎大学の共同研究グループは2023年10月10日、プロトン伝導セラミック燃料電池(PCFC)の発電性能を飛躍的に向上し、実験データを再現できる計算モデルを構築し、発電効率70%以上が実現できることを明らかにしたと発表した。

 プロトン伝導セラミック燃料電池は、理論上、他の燃料電池より高い発電効率が可能とされている。これは一般に利用されている固体酸化物形燃料電池(SOFC)などは、酸化物イオン(O2-)の伝導によって発電中に水蒸気が燃料側の燃料極で生成され、燃料が希釈されて使い切れていないのに対し、プロトン(水素イオン、H+)が伝導するプロトン伝導セラミック燃料電池では、水蒸気が空気側の空気極で生成するためだ。

 しかし、電解質がプロトンだけでなく正孔を伝導して内部短絡し、発電効率を低下させる点が課題となっていた。また、従来のプロトン伝導セラミック燃料電池の発電効率の計算では、電解質膜厚などの構成が内部短絡に及ぼす影響を正確に評価することが困難だった。

 プロトン伝導セラミック燃料電池の内部短絡は、電解質を薄膜化したときにより顕著になる。そこで研究グループでは、高いプロトン伝導性を有するイッテルビウム添加ジルコン酸バリウムを電解質に選定し、材料組成などの制御により、正孔伝導の影響を抑えることに成功。また、この電解質の製造プロセスの最適化などにより、約5μmの電解質でも内部短絡を抑制することができる緻密薄膜化技術を確立した。さらに、ナノ複合電極技術を適用することで、従来よりも100〜150℃低い作動温度550℃でも出力密度約0.6W/cm2を示すプロトン伝導セラミック燃料電池を開発した。

プロトン伝導セラミック燃料電池の模式図とプロトン伝導性電解質の走査型電子顕微鏡像 出典:産総研

 内部短絡は、電解質膜厚などに依存し、発電効率に大きく影響する。そこで、電極反応や電解質内の物質移動を表現する数式に、内部短絡の影響を組み込むことで、プロトン伝導セラミック燃料電池の出力密度や発電効率を再現できる計算モデルを構築した。さらに、実験により取得したプロトン伝導性電解質の材料物性などを上記の計算モデルに入力することにより、より正確な計算を可能にしたという。

実験データを基にした計算モデルにより得られたプロトン伝導セラミック燃料電池の発電効率 出典:産総研

 この計算モデルを用いることにより、大掛かりな実証実験を行わなくても、さまざまな条件下でのPCFCの発電効率を簡易に予測できるようになり、電解質膜厚などプロトン伝導セラミック燃料電池の最適な構成や作動条件を推定することが可能になった。

 計算モデルから算出した値と今回開発したプロトン伝導セラミック燃料電池の測定値は、高い精度で一致したという。さらにこの計算モデルをベースに、電解質膜厚や作動温度、燃料利用率などの条件を設定して発電特性を推定した結果、開発したプロトン伝導セラミック燃料電池は、作動温度500度の条件下において70%を超える発電効率が実現可能であることを明らかにしたとしている。

 研究グループでは今後、電極材料の改良などによって、実際に500℃で高効率発電できることを実証し、プロトン伝導セラミック燃料電池の普及を目指すとしている。

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