海外の「水素戦略」の最新動向、投資規模やスピード感の違いが明らかに法制度・規制(1/4 ページ)

政府が改定を検討している「水素基本戦略」。その内容を討議する「水素・燃料電池戦略協議会」において、諸外国の水素政策と民間投資の動向が報告され、その規模やスピード感の違いが明らかとなった。

» 2023年05月15日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

 水素はカーボンニュートラルを実現するために不可欠な脱炭素燃料と位置付けられており、国は「水素基本戦略」の改定に向けた検討を進めている。

 基本戦略においては、水素そのもののほか、水素を原料としたアンモニアや合成メタン・合成燃料等も対象とされており、現在、これら水素等の導入目標は2030年では300万トン、2050年では2,000万トン程度とされている。また、水素の供給コストについては、2030年に30円/Nm3、2050年に20円/Nm3が目標とされている。

 資源エネルギー庁の「水素・燃料電池戦略協議会」第31回会合において、諸外国の水素政策と民間投資の動向が報告され、その規模やスピード感の違いがあらためて浮き彫りとなった。

米国の水素政策と民間投資の動向

 米国では2022年8月に成立したインフレ抑制法(IRA)により、グリーン水素等の実質的な生産コストが大きく抑制されることとなった。

 IRAでは、まず水素の生産と投資に対する新たな税額控除制度が創設された。生産する水素のライフサイクルでの炭素集約度の違いに応じて、事業者は設備稼働から10年間にわたり、最大$3/kg-H2の生産税額控除、もしくは投資額の最大30%の投資税額控除を選択可能である。

表1.米国インフレ抑制法 水素への税額控除 出典:JOGMEC

 また、グリーン水素に必要な再エネ発電についても、生産と投資にかかる税額控除がインフレ抑制法の下で延長されたほか(水素の税額控除と併用可能)、CCUS(CO2の回収・貯留・利用)についても、税額控除の対象と金額が大幅に拡充された。(水素の税額控除とは併用不可)。

 現在、発電・セメント・鉄鋼・水素生産(水蒸気メタン改質)などの分野におけるCCSコストは50〜100ドル程度と想定されているが、新たに拡充されたCCS税額控除($85/t-CO2)により、CCSコストの大半が賄えるようになった。

表2.米国インフレ抑制法 再エネ・CCUSへの税額控除 出典:JOGMEC

 このため、一定の前提条件の元、税額控除が無い場合は、①グレー水素が最も低コスト(約$1/kgH2)であるのに対して、CCUS税額控除を活用することにより、ブルー水素のコストがグレー水素と同等もしくはそれを下回ることとなった。

 さらに、再エネ税額控除と水素税額控除を併用することにより、風力PPAにより安価な電力を調達できる場合には、実質的なコストはほぼゼロとなるなど、グリーン水素が最も低コストとなるケースも想定されている。

図1.IRA税額控除による水素生産コスト(水色・緑色の部分が税額控除) 出典:Resources for the Future

 このため米国では、大規模なグリーン水素・ブルー水素(アンモニア)生産プロジェクトが数多く開発されつつあり、1プロジェクトで年間265万トンのグリーン水素生産という大規模な計画も公表されている。

 米国エネルギー省は、水素のコストダウンが進んだ場合、想定年間需要量は少なくとも、2030年に1,000万トン、2040年に2,000万トン、2050年に5,000万トンと試算している。

 インフラ投資・雇用法に基づく「クリーン水素ハブ構想」では、クリーン水素の生産・加工・輸送・貯蔵・利用を一体的に実証するためのクリーン水素地域ハブの構築に総額80億ドルを助成する計画としており、全米で79の地域がこれに応募し、現在、選定手続き中である。

 このように、水素の生産と利用を中心に、輸送や転換も含めて、水素サプライチェーンにおいて幅広い分野での市場創出が見込まれており、2050年時点の水素の製造装置や部品の市場規模は、最大2,250億ドル程度と推計されている。

 バイデン政権は、米国資本の企業かどうかではなく、米国内でクリーンエネルギーを生産し、高賃金の長期雇用を生み出すプロジェクトを重視しており、日本企業も米国で水素事業に参入することにより、事業規模を拡大することが可能である。

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