物価上昇はFIT/FIP価格に反映されるか? 太陽光・風力発電の事業コスト動向太陽光(2/4 ページ)

» 2023年10月30日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

事業用太陽光のコスト動向

 太陽光発電協会では会員に対するアンケート調査から、2024年度の事業用太陽光発電システム費用の見通しを報告している。

 まず、地上設置太陽光を規模別に見た場合、50kW〜2MW未満では前年度調査と比較して「16万円以下」が増えて、コスト低減傾向にある一方、10〜50kW未満、及び2MW以上では、明確なコスト低減傾向が見られない。

図5.地上設置太陽光 システム費用(50〜250kW) 出典:太陽光発電協会

 また太陽光発電協会では、「需要家主導による太陽光発電導入促進に関する調査(2023年3月)」に基づき、地上設置太陽光の初期費用(CAPEX)の詳細な調査結果を報告している。

 ここでのコスト分析は、直流(DC)ベース(パネルの合計出力)である。図6の下段のとおり、2023年の地上設置(高圧)太陽光の平均初期費用は約14.8万円/kWであり、その内訳は、開発費が2.7万円/kW(18%)、設備費が7.6万円/kW(51%)、工事費が4.5万円/kW(30%)であった。

図6.地上設置太陽光の初期費用(CAPEX)の内訳 出典:太陽光発電協会

事業用太陽光のコスト低減に向けた取り組み

 また同調査によると、地上設置太陽光の平均発電コスト(LCOE)は、低圧が11.8円/kWh、高圧が11円/kWhであり、前回調査結果の高圧13.1円/kWh(2020年運開)と比べて2.1円/kWhコスト低減が進んでいることが確認された。

 今後は、太陽電池モジュール変換効率のさらなる向上や、稼働年数を20年から30年に長期化する取り組み、ベストプラクティスを参考とした工期の短縮や効率化による造成費・工事費の削減等により、コスト低減を進める予定としている。

 他方、従来は顕在化していなかった新たなコスト増加・収入減少要因も表面化しつつある。全国的に再エネ出力制御が増加しており、九州エリアでは制御対象太陽光に対する制御率は、2023年度で9.7%に上るとの見通しが示されているほか、東京エリアでは2024年度に一部系統で、ノンファーム接続に伴う系統混雑処理のための出力制御が実施される見込みとなっている。

 また、ケーブル盗難の被害が急増しており、直接的な被害金額に加え、復旧するまでの間、売電収入が減少するといった被害も生じている。このようなケーブル盗難や自然災害の増加に伴い、保険料の上昇もみられ、収益悪化の一因となっている。

図7.地上設置太陽光 発電コストの低減 出典:太陽光発電協会

 太陽光発電協会は事業用太陽光に関して、2030年度までに業界平均(上位50%程度)として7円/kWh(調達価格としては8.5円程度)を目指すとのコスト低減目標を掲げているが、現状のペースでは、目標達成が遅れるとの懸念が示されている。

太陽光発電協会からの要望事項

 近年、オフサイトPPA等の非FIT/非FIP案件が増加しつつあるものの、これらの多くは補助金等の支援で成り立っている。このため、現状ではFIT/FIPによる支援が必要であるとして、太陽光発電協会は、事業者の投資意欲を喚起し、持続的なコスト低減と2030年の導入目標を達成する観点から、コスト動向の実情を踏まえた調達価格等の算定を行うことを要望している。

 また、低圧事業用太陽光発電(10-50kW)における自家消費率30%以上等の地域活用要件が案件開発を困難にしているとして、温対法における促進区域での促進事業に認定される案件や、地方公共団体が所有する土地に設置される低圧太陽光発電については、地域活用要件を満たすと判断するよう、要望している。

 現行のFIP制度では、参照価格の算定方法として、前年度の市場平均価格を参照し当該月ごとに補正を行う方式としているが、これが事業予見性を損ねる一因となっている。このため、FITからFIPへの移行を促す観点から、参照する市場価格を当該月に変更するなどの制度見直しを要望している。

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