物価上昇はFIT/FIP価格に反映されるか? 太陽光・風力発電の事業コスト動向太陽光(3/4 ページ)

» 2023年10月30日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

世界における風力発電の動向

 世界の陸上風力発電は、設備コストの低下や設備利用率の上昇によりLCOE(均等化発電原価)の低下が進むことにより、累積導入容量(kW)は2010年から2022年の間に約5倍に拡大してきた。

 LCOE低下の要因としては、風車の大型化やO&Mコストの低下、規模の経済、そして長期的な取組みにより競争力あるサプライチェーンの構築・強化が重要である。

図8.世界の陸上風力発電のコストと利用率の推移 出典:電源開発

 2022年時点の風車メーカーの世界シェアトップはVestas社であるが、上位15社の内、10社・56%以上を中国メーカーが占めている。

 ところが、近年の素材価格・人件費等の高騰や金利上昇等により、欧米系風車メーカーは赤字決算となるなど事業環境の悪化が続いており、ウィンドファーム案件開発の停滞や事業中止も生じている。

 英国の洋上風力のCfD(補助金)入札において、一部の落札済み案件がコスト増加を理由として開発中止を公表したほか、2023年9月の第5ラウンドでは、着床式と浮体式のいずれも応札事業者はゼロとなり、不成立となった。このため、英国政府は昨今の物価上昇やインフレを踏まえて、入札上限価格の見直しに着手する方針である。

表1.風車メーカーの世界シェア 出典:GWEC Supply Side Data 2022

日本の風力発電の動向

 日本の「洋上風力産業ビジョン」では、2030年までに10GW、2040年までに30〜45GW の案件形成、着床式洋上風力発電コストを2030〜2035年までに8〜9円/kWhとすることを官民目標としている。

 日本では、地形等に起因する立地制約があり、導入する風車の大型化にも限界があることや、インフラ整備の遅れ(港湾・SEP船不足)のため、諸外国と比べてLCOEが割高となる状況が続いてきたが、世界的な資材価格高騰や円安の進行(2019年115円/米ドル⇒150円/米ドル)により、一層のコスト増加や採算悪化が懸念されている。ユーラスエナジーによれば、同社で見積取得した風車価格は、2020年比で約1.8倍に上昇したことが報告されている。

 また、風車メーカーは、事業規模が大きく予見性のある欧米の発電事業(顧客)を優先し、日本への風車の供給制限や納期長期化等も懸念される。国内建設業界の人手不足・高齢化の問題も顕在化しており、将来にわたって工期の長期化、高コスト化も懸念されている。

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