大手電力が自主的な取り組みとして、社内取引の一部を卸電力市場を介して行う「グロス・ビディング」が10月から休止となった。制度設計専門会合では、この廃止がスポット市場に影響を与えていないかを調査し、その結果を公表した。
グロス・ビディング(GB)とは、従来は余剰電力を中心に行われていた取引所取引(ネット・ビディング)に加え、旧一般電気事業者(旧一電)の社内取引分を含めて取引所を介して売買する自主的取り組みである。「1.市場の流動性向上」「2.価格変動の抑制」「3.透明性の向上」という3つの効果を目的として、2017年4月以降、旧一電各社(沖縄電力除く)は順次、グロス・ビディングを開始した。
2023年6月時点における、日本の電力需要に対するJEPX取引量(約定量)の比率は35.6%であり、グロス・ビディング導入当時(2017年4月)の3.2%と比べ、市場取引量は大幅に増加している。また、グロス・ビディング高値買い約定量の電力需要に対する比率は5.9%であった。
このように、グロス・ビディングは当初期待された役割を一定程度果たしたと考えられるが、課題も存在することが明らかとなってきた。
グロス・ビディングは、売り入札量と買い入札量が等しいことが基本形であるものの、近年、スポット市場で約定価格が0.01円/kWh(最低取引価格)となるコマにおいては、グロス・ビディングを行うために0.01円/kWhで売り入札(いわゆる“絶対売り”)を行っても、全ての売り札が約定しないことが増加しつつある。
この場合、グロス・ビディングの売れ残りが生じる一方で買い札がすべて約定した場合、下げ調整や時間前市場への売り入札を行う必要が生じ、これらの需給調整が不調に終われば、余剰インバランスを発生させることとなる。
またグロス・ビディングでは、限界費用に基づく入札が行われておらず、グロス・ビディングの開始以来、売り約定を確実にするための安値売り(0.01円/kWh)や、必ず買い戻すための高値買い(999円/kWh等)の入札量が増加しており、グロス・ビディングそれ自体をもって、「社内取引の透明性」が確保されているとは言い難い状況である。
旧一電各社は、内外無差別な卸売のコミットメントに基づき、新たに卸標準メニューを作成・公表することや、発電・小売部門間の情報遮断・社内取引の条件を定めた文書が存在することなどにより、社内取引の透明性が確保されたと判断されるに至った。
制度設計専門会合では、これらの成果と課題を踏まえ、2023年10月より当面グロス・ビディングを休止し、その後、市場への影響がないことが確認されれば、グロス・ビディングを取りやめてよいと判断された。
実際に10月1日受渡し分より、すべての旧一電においてグロス・ビディングが休止されており、これがスポット市場に影響を与えていないか、制度設計専門会合で確認を行った。
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