世界の気候変動対策の現状と課題、「COP28」における主要な論点とは?「COP28」を通じて考える気候危機への取り組み(前編)(2/4 ページ)

» 2023年11月27日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

年間1000億ドルの資金拠出の約束はどこへ

 金融メカニズムは、気候変動対策や持続可能な開発に向けた世界的な取り組みを支えている。補助金、融資、新たな金融手法を組み合わせたこれらのメカニズムは、資金供給において重要な役割を果たし、経済水準にかかわらず全ての国が世界的なイニシアチブに参加することを可能にしている。

 このようなファイナンスの仕組みは、先進国の歴史的責任、また国家間の経済格差に由来する。工業化時代の過程で、地球温暖化の原因となるGHGの79%1を排出してきた先進国の歴史的責任は大きい。また、1人当たりのCO2排出量を見ると、全大陸の中でアフリカは最も少なく年間1.07トン(2020年)2だが、米国は13.0トン、日本は同8.0トンである。アフリカの1人が1年間に排出する量を、米国人は1人が1カ月で排出している計算だ。にもかかわらず、アフリカ大陸では気候変動の甚大な悪影響を受けている。

 従って、先進国は倫理的にも現実的にも、途上国の努力を支援する義務がある。2020年までに年間1,000億ドルを拠出するという約束(2009年COP15におけるコペンハーゲン合意)はその現れであったと言える。2020年までに、公的資金、民間資金、二国間援助、多国間援助など、さまざまな資金源を集め、この拠出実現を目指していた。この資金は、途上国がGHG排出を緩和し、気候変動の悪影響に適応できるよう支援することを目的としており、その一環で緑の気候基金(GCF)のような基金が設立されてきた。

 しかし、経済協力開発機構(OECD)とオックスファム(Oxfam)の試算によると、2020年に先進国から途上国へ実際に流入した気候変動資金は833億ドルとされており、目標の1,000億ドルには程遠い。さらに事態を深刻にしているのは、この資金のかなりの部分が非譲許的融資(市場ベースの金利による融資)で、受益国の債務負担を悪化させていることである。気候変動による危機が迫る中、途上国はさらなる窮地に立たされているのだ。

 途上国は、開発アジェンダの推進だけでなく、気候変動に対する大規模な「緩和」や「適応」のための取り組みを実行しなくてはならない。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局長のサイモン・スティール氏は、先ごろ開催されたアフリカ気候サミット2023で、「世界は多くのことを同時に求めている。発展を望む一方、これまでのような『高炭素』な方法はとらないこと。この両立のために戦略を考えることは、世界的な責任である」と発言した。

 先進国等の現状の資金拠出は、公約を大きく下回っており、公的資金のみならず、多様で強固な財政的アプローチの必要性を明白にしている。包括的な気候変動対策の資金目標を持つとともに、革新的な資金調達メカニズムにも重点を置く必要があるだろう。伝統的な公的資金の枠を超えた強固なファイナンス戦略によってのみ、経済水準にかかわらず、すべての国が持続可能な気候変動対策を行えるのではないだろうか。

1. https://www.cgdev.org/media/who-caused-climate-change-historically

2. https://www.theglobaleconomy.com/rankings/Carbon_dioxide_emissions_per_capita/Africa/

民間セクターのプレゼンス拡大

 気候変動ファイナンスの分野では、民間セクターが重要な役割を担いつつある。例えば、「自主的なカーボン・クレジット市場」は、気候変動対策における重要なツールとなっている。企業は、排出量をオフセット(埋め合わせ)してカーボン・ニュートラルを達成するために、カーボン・クレジットを購入し、間接的に環境保全やグリーン・テクノロジー導入に貢献できる。このような市場プラットフォームがあることで、GHG排出量が減少する(回避・削減クレジットを産む)、あるいはGHG吸収・除去量が増加する(除去・隔離クレジットを産む)プロジェクトへの資金流入を支えている。対象プロジェクトは、植林のような自然ベースの解決策から、再生可能エネルギーのような革新的なものまで、幅広い範囲に及ぶ。

 自主的なカーボン・クレジット市場は急成長を遂げており、世界全体における市場規模は2021年には前年から4倍増の20億ドルに成長した。この勢いは一向に衰える気配がなく、2030年までに100億ドルから400億ドルになると予測されている。3

 この急激な成長により、気候変動対策の資金メカニズム変革の道が示されたと言えよう。また、民間主導の野心的な取り組みが、政治的な動きを加速させる触媒の役割を果たしている。

 欧米に続き、日本も新たな取り組みを始めている。2023年10月11日、東京証券取引所においてカーボン・クレジット市場が開設され、取引が開始された。日本取引所グループによると、初日の取引量は3,689t-CO2であった。この数字は、EUのような成熟した市場と比較すると控えめに見えるかもしれないが、黎明期の価値ある第一歩として捉えることが重要である。

 また、この動きと並行して、企業が「科学に基づく気候目標(SBT: Science Based Targets)」を設定する動きが日本で加速している。この目標を設定し、SBTi(Science Based Targets initiative)から認定を受けた企業数は、2022年時点で日本が最も多く(201社)、次いで英国(181社)、米国(109社)となった。日本企業において気候変動対策の取り組みが大きく進んでいる証左と言える。また、それらの企業が直接的に削減できないGHG排出量をオフセットするために、カーボン・クレジット市場を利用する可能性が高まり、カーボン・クレジット市場の成長と革新が促され、より気候変動対策に資金が流れ込むという相乗効果をもたらすことが期待できる。

 日本発のもう1つのイニシアチブである「JAHQCC (Japan Alliance for High Quality Carbon Credit)」にも注目したい。このアライアンスは、気候変動対策のための革新的なファイナンスを実現するための試みとして際立っている。2023年7月、味の素、三菱UFJ銀行、日本たばこ産業の3社の設立メンバーとともに、Degasが設立したこのアライアンスは、高品質なカーボン・クレジットによるファイナンスを通じて気候変動に対処することを目指している。JAHQCCは、環境問題にとどまらず、主にアフリカの貧困コミュニティの所得向上にもカーボン・クレジットの資金を活用することを目指している。2030年までに3,000万トンのCO2をオフセットし、300万人の農民の生活を向上させるという野心的な目標を掲げ、パートナー企業とともにカーボン・クレジット・ファンドを立ち上げ、質の高いプロジェクトに取り組んでいる。

3. https://www.bcg.com/publications/2023/why-the-voluntary-carbon-market-is-thriving

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