世界の気候変動対策の現状と課題、「COP28」における主要な論点とは?「COP28」を通じて考える気候危機への取り組み(前編)(3/4 ページ)

» 2023年11月27日 07時00分 公開
[株式会社クニエスマートジャパン]

部屋の中の象(タブー)の存在

 一方で、気候変動の緩和に向けたツールとして期待されている、カーボン・クレジット市場、グリーン投資、CSR活動もまた、その有効性と信頼性を厳しく問われている。例えば、カーボン・クレジット市場は、企業が排出量を実質的に減らすのではなく、排出量削減目標から逃れる方法を実質的に「買う」ことを許しており、その結果、本質的な変容を遅らせているという主張がある。

 オフセットの有効性や、資金提供されたプロジェクトの信頼性についての懸念も提起されており、実際に、約束した排出削減量を達成できないプロジェクトも出てきている。また、「グリーンウォッシング(環境配慮をしているように装いごまかす)」の懸念も根深い。「世界初のカーボン・ニュートラルの航空会社」という宣伝は「誇大広告であり、フライトが環境に悪影響を与えないという誤解を招く」という主張により、10億ドルの訴訟に巻き込まれている米デルタ航空はその顕著な例である。また、ひとつの排出削減に対して複数の関係者がクレジットを主張する「ダブルカウンティング」の問題などもあり、議論をさらに複雑にしている。

 ただし、こうした新たなツールによって実現された、称賛に値する成果を創出しているプロジェクトがあることを忘れてはいけない。ケニアの「カシガウ回廊REDD+プロジェクト4」や、ホンジュラス等の「GENIAバイオエナジープロジェクト5」などが有名である。カーボン・クレジットにより、プロジェクトの実現までの期間を何年も短縮し、途上国の公的債務を増やさず、プロジェクトに資金を供給したのは紛れもない事実である。

 他にも、カーボン・ニュートラルの達成という目標に対する懐疑的な見方もある。特に、現在のGHG排出量と、植林のように遠い将来に初めて発揮するGHG吸収能力のタイムラグによるところが大きい。このタイムラグがあっても、「ニュートラル」と言えるのだろうかという疑問には一理ある。現在のGHG排出量は、将来のオフセットをはるかに上回る悪影響をもたらす懸念があるからだ。

 このように、カーボン・クレジット市場やカーボン・ニュートラルと言った概念は、現代社会で広く称賛される一方で、現実的にはさらなる厳密な考察とルールの精査が必要な段階のものであるということに留意すべきである。

4.https://www.wbcsd.org/download/file/15178#:~:text=The%20Kasigau%20Corridor%20REDD%2B%20Project,land%20in%20the%20project%20area

5. https://geniabioenergy.com/en/the-honduras-project/

技術移転の極めて重要な役割

 気候変動対策や持続可能な開発に向けた取り組みにおいて、ファイナンスの仕組みが基盤となる一方で、技術移転が果たす役割も重要である。革新的な技術と国家間の技術協力は、エネルギーから廃棄物管理に至るまで、世界的な広がりを持って解決策を提供できる。

 技術移転の特筆すべき事例が、再生可能エネルギーにおけるモロッコとイギリスの協力関係である。英国は、2050年までにGHG排出量のネット(正味)ゼロを達成するという公約を実行に移すため、再生可能エネルギーの国際的リーダーとなったモロッコの太陽光発電と風力発電を利用し、3,800kmの海底ケーブルを通じて英国にクリーンな電力を供給する「Xlinks Morocco-UK Power Project」の実現を目指している。

 この施設は、10.5GWの再生可能エネルギーを生産し、2030年までに毎日20時間以上、3.6GWの安定した供給を確保する予定である。これは英国の一般家庭700万世帯分以上の電力に相当し、英国の総電力需要の8%を占める。さらに、20GWh/5GWのバッテリー貯蔵施設も敷地内に建設され、再生可能エネルギーの安定的かつ信頼性の高い供給が確保されることになる。3,800kmの巨大な海底ケーブルを構想することは画期的かつ、卓越した技術力を示すものである。さらに本プロジェクトは、各国がビジョンとコミットメントを共有して協力することで大きな成果を創出できるということも表している。6

 このような協力関係は、国際的な技術移転の計り知れない可能性と必要性を強調するものである。気候変動や、その他の環境にかかる脅威がもたらす未曾有の課題に各国が取り組む中、ファイナンスだけでなく、知見の共有や技術移転も重要である。この可能性を真に実現するためには、技術移転にインセンティブを与え、合理化するための国際的な政策と枠組みを策定し、強化することが求められている。

6. https://xlinks.co/morocco-uk-power-project/

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