急増する「電力先物取引」、先進企業の活用状況と今後の課題エネルギー管理(2/4 ページ)

» 2024年03月04日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]

電力先物市場活用における課題と要望

 検討会においてJERAPTは、電力先物市場活用における実務的な課題をいくつか指摘している。その一例として、日本ではEEXとTOCOM及びJEPXでは休日定義が異なっているのに対して、アメリカではNERC(北米電力信頼度協議会)が長期休日カレンダー等を発行し、原資産の定義が統一されている。よってJERAPTでは、日本においてもOCCTO(電力広域的運営推進機関)等の公的な機関が実需を考慮した長期休日カレンダー(および休日取扱ロジック)を発行の上、これに統一し、原資産定義を設定することを要望している。

 また週間商品においては、EEXとJEPXで週の定義が異なるため、現物オペレーション(OCCTOの週間計画)を考慮した「土曜日起こし」に統一することを要望している。

 また、日本と欧州の休日が異なるため、日本は休日でもEEXが開場していれば、Settlement Price(清算値段)が動くことがある。Settlement Priceの透明性確保のため、取引約定後、速やかにポスティングするルール作りや、日本の営業日を考慮した取引所の開催日・時間の設定を要望している。

 日本の電力先物市場の流動性向上に向けて、JERAPTはエリアベーシス商品の創成を提案している。米国では、まずハブ(PJMのWestern Hub等)で取引を行い、市場全体への価格ヘッジを行い、その上でハブと実需給エリアの値差をベーシスでヘッジすることが通常である。これにより、ほとんどの取引がハブ商品を含むため、ハブの流動性を損なうことなくエリア展開が可能となっている。日本では、東京エリア・関西エリアをハブとすることが想定される。

イーレックスによる電力先物取引

 新電力大手のイーレックスでは、電力先物取引を活用する目的として、以下の3点を挙げている。

  1. 調達リスクを平準化する⇒実需の範囲で電力先物を活用して調達原価を安定化させる。
  2. 取引したいタイミングを選べるようにする⇒いつでも売買できる電力先物で状況を見ながらタイミングよく取引する。
  3. 相対協議にも活用する。⇒先物市場機能を利用して相対協議での提案の幅を広げる

 同社のヘッジ会計方針では、実業に関係のある先物取引については時価評価の必要はなく、逆に、実業に関係がない場合は、たとえ現物取引であっても時価評価の対象となる可能性があることが報告された。

 イーレックスでは、先物市場には多様なプレイヤーがいるため、どのような価格帯であっても約定機会があることを先物市場の長所として認識しており、急激に市場価格が下落した局面で電力先物を活用した事例を報告している。

図4.イーレックスによる電力先物活用事例 出典:イーレックス

 図4は、①で先物を買い、②で買った先物を売り、③で現物を買うという事例である。

 市場価格が急激に下落すると、発電事業者の観点では、発電原価を下回る価格では売りにくいため、現物の先渡取引でのオファーは少なくなる。しかしながら、先物市場には目線の異なる売り手がいるため、先物を買うことができる。イーレックスでは、価格発信機能のあるTOCOMの価格を参照しながら、流動性の高いEEXで取引を行っている。

ENGIEグループによる電力リスク管理

 ENGIE(エンジー)は、フランスガス公社(GDF)として設立され、自由化後は国際的なエネルギー事業を展開しており、保有する発電設備容量は火力で60GW、再エネで38GWに上る。

 同社では、先物を収益の機会と捉えており、自社のリサーチチームでファンダメンタルズ分析を行いながら、先物価格がフェアバリューと異なる場合に、リスクを取ってトレーディングを行っている。

 同社からは、欧州におけるリスク管理手法の一つとして、発電所の開発から実需給までの一般的なプロセスが報告された。

図5.発電所の開発から実需給までのリスクヘッジ 出典:ENGIE

 発電所の開発においては、長期的なキャッシュフローを安定させることが最も重要であるため、10年〜20年という長期的な収入源としてPPAを確保する。ただし、すべてを固定するわけでなく、将来のアップサイドを狙い、一部はオープンに残しておき、先物や相対卸を活用しヘッジを行う。

 発電所の運転開始後は、ヘッジ等の活用による最適化を行う。同社では専属トレーダーがヘッジを行った後は、その計画と結果の評価を行い、もう一度、月単位のリスク管理に戻り反映していくことが報告された。

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