火力発電の動向――供給力の確保と脱炭素化の両立はどうなるのか第74回「電力・ガス基本政策小委員会」(4/4 ページ)

» 2024年05月17日 07時00分 公開
[梅田あおばスマートジャパン]
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LNG火力の動向

 曇天無風状態(Dunkelflaute)により長期間にわたり変動性再エネの出力が低下するリスクへの対応として、火力電源の重要性は国際的にも認識されており、欧州においても、将来的な脱炭素化を前提としてLNG火力を一定程度維持する方向性が示されている。ドイツでは、2035〜2040年に水素専焼に切り替えることを前提に、合計10GWのガス火力発電所を新設するための入札を行い、必要な資金は気候変動基金から提供する案が公表されている。

 容量市場の長期脱炭素電源オークションでは、2023〜2025年度の当初3年間は、短期的な電力需給逼迫防止の観点から、LNG専焼火力の新設・リプレースもその募集対象としている。4月26日に第1回オークションの結果が公表され、LNG専焼火力は10件・575.6万kWが約定し、3年間の募集量600万kWのほぼ全てが初年度で調達される結果となった。なお、LNG専焼火力であっても、制度趣旨に則り、供給力提供開始から10年以内に脱炭素化に向けた対応を開始し、2050年までに脱炭素化を完了することが応札条件とされている。

表2.LNG専焼火力 落札電源 出典:長期脱炭素電源オークション約定結果から筆者作成

 従来、大手発電事業者は、LNG調達の大半を長期契約により賄っていたが、小売全面自由化以降、長期契約比率の減少が指摘されていた。

 資源エネルギー庁が旧一電及びJERAに対して行った調査によると、年度当初の計画では、各社が受け入れるLNGのうち9割程度を長期契約によって調達する計画としているが、年度中に追加のスポット調達や長期契約の転売等を行うことにより、実績受入量に占める長期契約の比率は年度当初計画を下回っており、その下振れ量は次第に大きくなっていることが明らかとなった。

図10.LNGの長期契約比率(計画・実績)の推移 出典:電力・ガス基本政策小委員会

火力の供給力確保と脱炭素化に関する論点

 今後、データセンターや半導体工場の新増設等により電力需要の大幅増加が見込まれており、安定供給確保の観点から、既設火力の維持並びに将来の脱炭素化を前提とした火力電源の新設をどのように進めていくべきか検討が必要とされている。

 2026年度にはGXリーグの排出量取引制度GX-ETSの第2フェーズが開始され、排出量取引が本格化されるほか、2028年度から化石燃料賦課金が新たに導入される予定であり、脱炭素電源が相対的に有利となる環境整備が進む見込みである。

 初回の長期脱炭素電源オークションでは、水素混焼への改修が1件・5.5万kW、アンモニア混焼への改修が5件・77.0万kW落札し、既設火力の脱炭素化に向けた一歩が踏み出されたところであるが、水素・アンモニア等のサプライチェーン構築に向けた値差支援制度等により、さらなる脱炭素燃料火力電源の導入拡大が期待される。

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