食糧と競合しないセルロース・廃食油などを原料とする第二世代バイオ燃料の中でも、従来型ジェット燃料と混合して使われるバイオジェット燃料のことをニートSAF(Sustainable Aviation Fuel)と呼ぶ。図3に示す通り、ニートSAFの品質規格はASTM(American Society for Testing and Materials International)のD7566(Specification for Aviation Turbine Fuel Containing Synthesized Hydrocarbons)で、従来型ジェット燃料は航空燃料の品質規格ASTM D1655 (Specification for Aviation Turbine Fuels)で規定されている。また、ニートSAFと従来型ジェット燃料の混合燃料(SAF)は、ASTM D7566の規格に合格すればASTM D1655と同等の取り扱いが可能となり、既存の燃料インフラをそのまま使用できるようになるという関係性を持つ。
ニートSAFはその原料と製造方法の組み合わせによりAnnex1〜8に分類され、各AnnexにおけるニートSAFと従来型ジェット燃料との混合上限比率が規定されている。ニートSAFの製造方法の違いや技術開発状況を図4にまとめる。
SAF商用化に向けたニートSAFの技術開発などは欧米が先行しているものの、まだまだ技術開発中の製造方法が多いのが実情である。既に商用化されているものでは、廃食油などを原料に製造するHEFA(Hydroprocessed Esters and Fatty Acids)と呼ばれる製造方法が存在する。また、セルロースなどの木質バイオマスを原料とするFT(Fischer Tropsch)と呼ばれる製造方法についても米国では商用化されている。
一方、その他の製造方法については、いまだ実証段階であることに加えて、上記のHEFA法やFT法も日本では2025年以降にようやく実証実験が進められる段階であり、商用化には時間がかかると考えられる。既に欧米で商用化されているとはいえ、原料コストや製造コストが高いため、第一世代のバイオ燃料に比べるとその供給コストは高くなり、これが社会への本格普及を阻害している。特に、SAFとして既に使われているAnnex2の原料である廃食油などの油脂類の調達は大きな課題となっている。各地域で収集可能な廃食油は、その量が限られているためである。
また、バイオエタノールなどの原料の植物残渣(セルロース)は、第一世代の原料である穀物類と異なり、複雑な物質を含む原料であるため、前処理に大きな負荷を必要とするのである。
食糧と競合しない微細藻類を原料とする第三世代バイオ燃料は、面積当たりの収率が大きいことなどにより、次の世代として注目されている。この世代については、いまだ世界で商用化されている例はなく、大量生産させる技術の確立こそが大きな課題である。
ここまでで、バイオ燃料にもさまざまな種類が存在することを述べてきたが、実際のところどのバイオ燃料に最も注目が集まっているのか。それは、SAFであると筆者は考える。
短中期的にみた航空機の脱炭素化は、前述した通り電動化ではなくカーボンニュートラル燃料への代替が適していることから、航空業界および各航空会社はSAFの導入に積極的なのだ。航空会社は燃料価格の上昇分を、燃料サーチャージとして顧客に転嫁するシステムを確立していることも追い風と考えられる。このシステムにより、コストが高いSAFを導入しても、燃料サーチャージを一定程度の高値にして航空券を販売できるということだ。よって、数あるバイオ燃料の中でも、バイオエタノールが既に商用化されてはいるが、今後の注目燃料としてはSAFであると見られる。
ここまでで、脱炭素エネルギーとしてのバイオ燃料の分類や製造方法や社会に普及させる上での課題、そして今後注目されるバイオ燃料について述べてきた。連載第2回では、バイオ燃料に対する諸外国のスタンスや取り組みの方向性、脱炭素エネルギーとしてのバイオ燃料の位置付けを整理することで、日本企業が国内外でバイオ燃料ビジネスを展開する上で、考慮すべきポイントを考察する。
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