太陽光発電のケーブル盗難問題は新フェーズに──被害状況と深刻化する保険問題の最新動向太陽光発電協会(JPEA)に聞く(2/3 ページ)

» 2025年11月25日 07時00分 公開
[廣町公則スマートジャパン]

銅価格高騰に乗じた“トクリュウ”の影

──被害が集中している地域や、狙われやすい発電所の特徴はありますか。

杉本氏 被害地域は事業用太陽光の導入状況と相関していますが、とりわけ北関東圏で多発しています。関東の5県(茨城、千葉、栃木、群馬、埼玉)と福島で、大体全国の7割という状況です。

 設備容量で見ると、以前は特別高圧の大規模発電所が狙われていました。1カ所で何百メートルものケーブルを敷設しているため、一晩で数トン単位の銅を抜き取ることも可能であり、犯行グループにとっては旨味の大きいターゲットだったのでしょう。

 現在は、低圧案件の方に標的が移ってきています。防犯対策が十分でない低圧の発電所が林立している地域では、同一犯行グループが短期間で複数の現場を回るケースもみられます。とはいえ大規模発電所の盗難リスクも依然高く、発電所の規模を問わない社会問題となっています。

 狙われやすい発電所に共通する特色としては、「1.人目につきにくい立地場所」「2.外から見えにくい」「3.一見して保守点検が十分でない」「4.防犯・警備状態が十分でない」「5.コロガシ配管(地上配管)」「6.逃げやすい」などが挙げられます。

──犯行グループの実態や、最近の傾向について教えてください。

杉本氏 警察の捜査からも、外国籍を含む組織的グループが関与していることがわかっています。複数台の車両を使い、夜間に無線で連絡を取りながら行動しているようです。中には電気工事の経験を持つ人物もいて、現場の構造を正確に把握した上で、短時間で切断・撤収していきます。

 さらに、下見も徹底しており、侵入してもすぐには盗みません。警備会社や警察がどのくらいの時間で駆けつけるかを確かめてから、実際の犯行に及びます。グループ内の役割分担がしっかりできています。警察庁によると、いわゆるトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)が、この犯行にも大きく関与している可能性があるということです。

──そもそも、なぜ彼らは銅線ケーブルを狙うのでしょうか。

杉本氏 犯行の背景には、銅価格の高騰があります。太陽光発電設備の多くのケーブルは銅線であり、犯行はこの銅線の転売を狙って行われます。銅価格は2024年から2025年にかけて1kg当たり1400〜1600円で推移しており、今後も上昇傾向が続くと見込まれています。この価格は、アルミの3〜4倍に相当するものです。

 盗んだ銅の換金ルートも存在しており、スクラップ業者や闇ルートを経由して海外に流している例も報告されています。こうした銅の買い取り・換金ルートの存在が、盗難を減らす最大の障壁です。金属盗難は「需要がある限り続く」と言われますが、まさにその構造がここにあります。

新法による“出口対策”と業界の取り組み

金属盗対策法の概要 出典:警察庁

──新たに成立した「金属盗対策法」により、どんな変化が生じると考えますか。

杉本氏 この法律は大きな転機になると期待しています。金属盗対策法(盗難特定金属製物品の処分の防止等に関する法律)は、「特定金属くず買受業に係る措置」「犯行用具規制」「盗難の防止に関する情報の周知」という3項目で構成されています。このうち、犯行用具規制と情報周知については、2025年9月1日より施行となりました。犯行用具規制とは、一定の長さまたは構造を有するケーブルカッターやボルトクリッパーを、業務その他の正当な理由なく隠して携帯することを禁止するものです。もちろん、罰則もあります。

 この法律に基づいて、来年には、特定金属くず買受業者に対する新たな登録・管理制度がはじまります。金属くず買受け時に相手方の本人確認をすることや、取引記録の作成義務、盗品であることが疑われる場合の警察への申告義務など、盗んだ銅を「買い取らせない」ための措置が盛り込まれています。これに違反した買受業者には、立入検査や業務停止命令もある厳しいものです。

 金属盗対策法は、盗品に対する“出口対策”であり、この法律によって、銅の換金ルートが狭まっていくことは間違いないでしょう。

──JPEAとしては、この問題にどう取り組んでいるのでしょうか。

杉本氏 JPEAでは、2024年にケーブル盗難に関するタスクフォースを立ち上げ、「災害・盗難対策ガイドライン(特高発電所向け)」や「リスク対策チェックシート(1MW未満の発電所向け)」を作成するなど、発電事業者がとるべき対策を示してきました。また、再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)と共同で「太陽光発電システムの持続可能な保険契約・運用の実現に向けた提言書」を取りまとめるなど、先に申し上げた保険問題の解消にも尽力しています。

 リスク対策チェックシートは、ケーブル盗難対策と自然災害対策、電気・機械的事故対策を総合的にチェックするもので、約70の調査項目をもとに得点を算出し、発電所のリスク対策を評価します。はじめに申し上げたように、ケーブル盗難に伴う保険の問題は深刻です。JPEAとしては、このチェックシートに基づく評価を保険の査定基準にも取り入れてもらえるよう、保険会社や金融機関とも協議を進めているところです。

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