――経営破たんしたときも、江幡さんは機内Wi-Fiの導入を検討するような仕事だったのですか?
江幡: そうです。その時から、社内は大きく変わりはじめました。他社に先駆けていいものを提供したいとか、新しいものをお客さまに届けたいという思いが欠けていたことを、社員みんなで反省しまして。チャレンジ精神の欠如に社員一人ひとりが気づいたんですね。そこで、どうすればお客さまに再び選んでいただけるエアラインとして復活できるのか? 議論を進めるなかで、2010年にプランに上がったのが、これまでにない個室型フルフラットシートの開発であり、機内食の刷新であり、そしてもう一つが機内エンターテインメントとしての新たな価値を提供することでした。
――その一つがWi-Fiのサービスだったわけですね。利用者からも、機内でインターネットやメールを使いたいという要望は多かったのでしょうか?
江幡: 確実に増えていました。例えば2011年3月の東日本大震災のとき、被害の状況が連日連夜ニュースで流れていたのに、飛行機に乗っている時間だけは情報が途絶えてしまう。その不安に耐えられないという声も多かったんです。そこで、フライト中も地上と変わらない状態で情報にアクセスできる環境を実現しようと、導入に向けた取り組みを開始しました。
――社内で反対の声はなかったのでしょうか? 以前、コネクション・バイ・ボーイングのシステムを導入したときは「飛行機に乗ってまで仕事なんかしたくない」という声も多かったと記憶していますが。
江幡: ありましたね、反対の声も。そんなものが機内に本当に必要なのか。前のときは利用する人がほとんどいなかったじゃないか、と。ですが、かつてとは状況が一変していました。iPadなどのタブレットも普及し始めていましたし。決してエンターテインメントとして導入しようと思ったわけではありません。メールでの通常の連絡や、やりかけの仕事があれば、飛行機に乗る前に駆け込みの形で終えなくても、機内でゆっくりやればいい。そんな地上と同じ環境を機内に実現することが必要と考えました。
――地上と変わらない環境というのは、とてもありがたいですよ。私もよく、現地の最新情報を出発直前に空港ラウンジで入手したり、渡航先で会う約束になっている人と「これから予定どおり出発する」とメールのやりとりをしてきました。しかしそれでも、離陸後に天候の急変などで到着時間が変更になるケースはある。その連絡を、機内Wi-Fiがあれば上空からできます。「30分到着が遅れると機長からアナウンスがあったから、到着ロビーのカフェでお茶でも飲んでいて」とメールが打てるんです。
江幡: 特に飛行時間が10時間を超える欧米線を利用する場合、出発前にいろいろ終えなければならないことがあると、それがとても大きなストレスになると言われるお客さまも少なくありませんでした。仕事が滞るのがイヤだから飛行機に乗らない、出張に出ないという人もいたくらいです。そういう意味で、機内Wi-Fiの存在意義は大きいのでしょうね。
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