2003年時点でのEU加盟国のブロードバンド契約数は約2,268万件で、そのうち76%がDSLと推測されている。そのため、ヨーロッパでは放送の伝送路としてADSLが最も現実的な選択肢とされ、実際2003年より各地でADSL放送の本格展開が始まっている。
ヨーロッパの通信市場は規制緩和が進んでおり、ケーブル事業者、携帯電話事業者の参入に伴い業界競争が激化している。そうした中で新規事業開拓に乗り出す必要に迫られた通信事業者がADSL放送事業を開始するケースが目立ち始めている。
連載初回に触れたように欧州委員会はじめ各国政府は、パソコンに代わる家庭内情報端末としてのデジタルテレビに対する期待感を表している。下の図表はヨーロッパ諸国のパソコン世帯普及を示しているが、日本の世帯普及率71.7%(2002年時/総務省発表)と比較しても、総じて低い水準にあるといえる。
【主要国のインターネット・パソコン世帯普及率(2002年)】
国名 | インターネット加入率 | パソコン普及率 |
---|---|---|
オーストリア | 40.94 | 33.54 |
ベルギー | 32.86 | 24.16 |
デンマーク | 46.52 | 57.68 |
フィンランド | 50.89 | 44.17 |
フランス | 31.38 | 34.71 |
ドイツ | 42.37 | 43.49 |
ギリシア | 18.15 | 8.12 |
イタリア | 30.11 | 19.48 |
オランダ | 53.04 | 42.84 |
ノルウェー | 50.48 | 50.80 |
ポルトガル | 35.55 | 11.74 |
スペイン | 19.31 | 16.82 |
スウェーデン | 57.31 | 56.12 |
スイス | 32.62 | 53.83 |
イギリス | 40.62 | 36.62 |
*パソコン普及率のうち、オーストリア、ギリシア、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリスは2001年値。(出典:ITU)
実際、英国政府は双方向機能を備えたテレビを重視する理由として、デジタル・デバイドの問題を挙げている。そして、災害などの緊急時に詳しい情報をほぼ全家庭にあるテレビ受像機に向けて提供できること、さらには双方向環境を整えれば誰もが行政情報にアクセスできることをメリットとしている。
英国では2002年4月にデジタル衛星放送で電子行政サービスのトライアルが始まっている。今年4月には内閣府が今後ケーブル放送でも同様のサービスを提供すると発表したばかりで、サービス内容の充実と提供範囲の拡大が進んでいる。
通信網を利用する最大のメリットは、双方向環境がはじめから保証されている点である。だからこそ通常放送に加えて、オンデマンド式に番組や映像を引き出せるVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスが各地で展開されている。
ヨーロッパでは2000年前後に英国でブロードバンド回線を介した多チャンネル放送、VODサービスの提供が始まった。最近ではフランス、イタリア、スイスなどで同様のサービスが展開されているが、多くの国はADSL経由である。唯一イタリアのブロードバンド事業者、e.Biscomが光ファイバ経由の多チャンネル放送サービスを提供していることが特筆に価する。
上記のような「融合」の動きは、多分にヨーロッパ特有の事情を反映したものであり、他地域にそのまま当てはまるものではない。しかしながら、ブロードバンド回線を利用した双方向サービスでは、ヨーロッパが一足先を行っていることに間違いはなく、われわれにとっても参考になる点は多い。
さて、次回は英国ハル市のADSL放送を例に取りながら、放送の双方向化が意味することについて考えてみたい。
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