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ポータルビジネスはソーシャル化されるのか?(上)ネットベンチャー3.0【第13回】(2/2 ページ)

» 2006年10月27日 11時30分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]
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SNSを情報より分けの“ふるい”として使う

 「CGMでユーザーが100万個の書き込みをして、その100万個が全部読まれるなんてあり得ない。100万個の中でも、最初の10個が肝心であって、その10個をどう選ぶのか。それにはさまざまなアプローチがあるけれども、そのひとつがソーシャルネットワーキングのダイアグラムを活用するということでしょう」

 「100万人のユーザーが書き込んでいるけれども、その中で自分の友人が書いたものについては優先的に読みたいとか、あるいは知らない人が書いたものは信用できないとか、そうやって人間関係を使えば、100万個の最初の10個をピックアップする有効なツールのひとつになるのではないかと思うわけです」

 つまりはSNSを、情報の巨大な海から必要な情報をすくい上げるUFOキャッチャーにしていこう、という考え方である。そしてこの考え方は、実のところmixiの今後の進路と一致している。ミクシィが9月に上場した直後、私は月刊誌『文藝春秋』の取材で笠原健治社長にインタビューしたが、彼はこう話していた。「収益源としては、広告収益が優先順位としては1位。しかし提供するサービスとしては、ユーザーに利便性が高いサービスを提供していかなければならないと思っています。音楽やニュース、映像などのコンテンツはmixiと親和性が高いと思うので、なるべく早く、価値の高いサービスを提供していく必要があるでしょうね。そこですぐに収益がガツンと上げられるというイメージではないんですが、サービスとして成長していって、広告に次ぐ収益に育っていく可能性はあると思っています」

 この取材で私は、「テレビCM崩壊 マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0」(ジョセフ・ジャフィ著、翔泳社)翻訳者の織田浩一さんにもインタビューした。彼はこう話してくれた。「今後、SNSで最も大きな可能性があるのは、利用者向けに音楽や映画、テレビ番組を配信したり、あるいはさまざまな商品を売ったりするビジネスでしょう。mixiは利用者の年齢や性別、住所、趣味、好きな音楽などの情報を蓄積しているから、その利用者に合わせて最適な商品を販売することができる。また利用者同士のクチコミをうまく利用して、音楽やテレビ番組のプロモーションを行っていくようなことも可能ですね」

 『文藝春秋』にも書いたが、この分野で最先端を走っているのは、アメリカのSNS『MySpace』である。この8月には全世界の会員数が1億人を突破した、空前絶後の巨大コミュニティーだ。100万以上の音楽バンドが活動し、ライブの告知を行ったり、自分たちの作った楽曲を有料配信したりしている。また今年に入って、『24』などの人気テレビ番組を有料で視聴できるサービスも始まっている。音楽や映像コンテンツを配信するチャネルになりつつあるということだ。ミクシィの笠原社長も、このMySpaceのサービスを強く意識しているのは間違いない。なぜなら、将来的には物販を取り込んでいくことがSNSのビジネスを成長させる最大の起爆剤となる可能性が高いからだ。

 mixiは、600万人近い会員数を擁するSNSとして、コンテンツ配信や物販の世界に乗り出していこうと考えている。そしてそのまったく逆の立場から、ヤフーも同じ場所を目指している。巨大ポータルとして、同社は物販やサービスなどのコンテンツを約100もそろえている。その立ち位置から、逆にSNS側へと攻め込んでいこうとしているわけだ。しかし、ことはそう簡単ではない。

 「これからの最大の課題は、Yahoo! JAPAN上でのソーシャルネットワーキングのダイアグラムをどのようにして大きくしていくかということ。ひとつはもちろん日記帳のようなサービスを提供していくという方法はあると思うけれども、しかしそういう人がそんなに大勢はいるとは思えない」

 井上社長がこう話すように、交換日記サービスについてはmixiで打ち止めになるのは間違いないだろう。mixiにもMySpaceにもYahoo! Daysにも……と日記をいくつも書き分ける人がいるとは思えない。SNSの日記サービスはひとつで十分だ。となると、ヤフーとしての戦略は日記ではなく、もっと別のものになる。

Yahoo! JAPAN全サービスをSNS化

 「Yahoo! JAPANのいろいろなサービスで、人間関係ダイアグラムを活用できるようなことにしていけば、時間はかかるかもしれないけれども、徐々に成長させていくことは可能なのではないか。ヤフージャパン上で、Yahoo! JAPAN IDでログインして使っている人(アクティブユーザーID数)は1680万人もいるわけですから、その人たちが友達関係図でみんな結ばれば、CGMを全員が有効利用できるようになる」

 ヤフーは今後、同社が提供しているコンテンツの多くに人間関係ダイアグラムを差し込んでいき、SNS化していくことを検討しているという。「すでに、いろいろなコンテンツで少しずつSNS化は行われているんです。たとえばグルメの口コミもありますし、音楽、映画にもある。これから、もっといろいろなところにどんどん導入していくと思います。多少時間はかかるかもしれませんが、Yahoo! JAPANの全サービスがそうなると思っていただいてほぼ間違いない」と井上社長は話す。交換日記によってSNSを離陸させるのではなく、そうやってさまざまなコンテンツに人間関係ダイアグラムを融合させていくことで、利用価値を高めていくことでSNSのユーザーを増やしていこう、という考えだ。

 私が「もしそれがすべて実現できれば、非常に巨大なWeb2.0サービスになるでしょうね」と言うと、井上社長はこう答えたのだった。

 「ええ。たぶん、いつの間にか一番になると思っていますけどね」

(金曜日に掲載します)

佐々木俊尚氏のプロフィール

1961年12月5日、兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年、毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年にアスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年からフリージャーナリスト。主にIT分野を取材している。

著書:「徹底追及 個人情報流出事件」(秀和システム)、「ヒルズな人たち」(小学館)、「ライブドア資本論」(日本評論社)、「検索エンジン戦争」(アスペクト)、「ネット業界ハンドブック」(東洋経済新報社)、「グーグルGoogle 既存のビジネスを破壊する」(文春新書)、「検索エンジンがとびっきりの客を連れてきた!」(ソフトバンククリエイティブ)、「ウェブ2.0は夢か現実か?」(宝島社)など。


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