小泉元首相の「感動したっ!!」発言が“偉そうに聞こえない”理由一目置かせる「役割別ビジネス会話」

年齢と学年がほぼイコールだった学生時代とは違い、ビジネスの現場では年齢と職場での階級は必ずしも一致しないもの。今回は「年下の上司」から「年上の部下」へのコミュニケーションのコツを考えてみよう。

» 2009年03月31日 18時26分 公開
[杉本吏ITmedia]

 上司として、部下として、相手に一目置かれるようなビジネス会話を考える2009年3月の総務特集

 年齢と学年がほぼイコールだった学生時代とは違い、ビジネスの現場では年齢と職場での階級は必ずしも一致しないもの。例えば「年下の上司」と「年上の部下」のコミュニケーションなどは、どうしてもお互いが相手を意識しあい、会話がギクシャクしてしまったりするものだ。今回は、そんなときに使えるちょっとした会話のコツについて考えてみよう。


「あなたは頑張った」ではなく「私が助かった」

年上の部下とのコミュニケーションを改善したい

自分がリーダーを務めるチームに、中途採用で5歳年上の部下が入ってきた。部下は業界での経験の長さからか、なんでも自分で進めてしまう傾向があり、その点を注意してもほとんど聞く耳持たず。なんとかうまく付き合う方法はないものか――。


 転職の多い業界や、実力重視の新興企業でありがちなこんなケース。年上の部下は「俺の方が経験もあるし、現場での動き方だって知ってるんだ!」というプライドを持っていることが多い。一方、年下の上司は「いくら年齢が下と言ったって、上司なのは自分なんだ。なめられるわけにはいかない」と意地になってしまうことがある。「お互いがお互いにバリアを張っている状態。これではうまくいくはずがない」と言うのは、ビジネスパーソン向けにコミュニケーション研修などを行う、ビジネスプラスサポートの池田稔子氏だ。

 「上司は『注意せねば』『アドバイスせねば』という“ネバネバ星人”になってしまいがち。そういった上から目線の気持ちは、どうしても部下に伝わってしまう」。池田氏は、「注意」「アドバイス」ではなく、相手と同じ目線で「メッセージ」を伝えるという意識を持つことが重要だと強調する。

 このメッセージを伝える際に有効なのが、相手を主語にした「Youメッセージ」ではなく、自分を主語にした「Iメッセージ」を使うことだ。「例えば相手をほめるとき。『(あなたは)よく頑張りましたね』といった褒め方では、どうしても上から目線になってしまう」。そうではなく、「あなたの今回の仕事によって、(私が)大変助かりました」といったように、自分を主語にする。これがIメッセージだ。

 Iメッセージの代表的な例として池田氏が挙げたのが、2001年の大相撲夏場所で、幕内優勝した横綱・貴乃花に小泉純一郎元首相が掛けた言葉だ。右ひざ半月板を損傷する大けがを負いながらも千秋楽に強行出場し、優勝を果たした横綱に、小泉元首相はこうコメントした。

 「痛みに耐えて、よく頑張った! 感動したっ!!

 このコメントの場合、「よく頑張った!」という前半はYouメッセージだ。必死の思いで優勝を勝ち取った横綱に対して「(あなたは)よく頑張りました」と認めるだけでは、なんだか小泉元首相の方が偉そうに感じられてしまう。だが、続いて「(私は)感動したっ!!」というIメッセージを付け加えたことで、言葉を掛けられた横綱はもとより、会場やテレビで視聴していた多くの人に気持ちが伝わり、共感を呼んだのでは、と池田氏は分析する。

ビジネス会話は「質より量」 短い会話の数を増やそう

 「年下の上司と年上の部下」という今回のようなケースに限らず、「職場で苦手意識を持っている人には、仕事以外の内容ではほとんど話し掛けない」という人も多いだろう。だが、「苦手だから」「どうせうまくいかないから」と言っていては、ビジネスにおけるコミュニケーションは成り立たない。

 池田氏いわく、「ビジネス会話は質より量」。既に信頼関係が構築されている相手ならば必要最小限のやり取りでもいいが、そうでない相手に対しては、雑談も含めた会話の量がその後の自然なコミュニケーションにつながる。雑談のコツは「一度に長い時間話す」のではなく、「短い会話の回数を増やす」ことだ。

 例えば、それまであまり会話を交わしたことのなかった相手から、急に「今夜飲みにいこう! そろそろ腹を割って話そう!」なんて声を掛けられたら、(なんだ……? 何か自分に伝えづらい頼みごとでもあるのか……?)などと逆に勘繰りたくなってしまうもの。「一度に60分ではなく、10分を6回。付き合いにくい相手に対しては、こちらの方がお互い気負わずに済みますし、効果も高いです」(池田氏)


 「“組織とは異質な人材の集合体である”――これはとある経営者が言っていた言葉ですが、まったくその通り」(池田氏)

 気の合う相手とだけ付き合っていればよかった学生時代と違い、ビジネスの現場では、自分の価値観とまったく異なる相手とも付き合わなければならない。今回紹介したような会話のポイントを意識的に行うことで、自分が苦手と感じる人とのコミュニケーションも円滑に進められるようになるはずだ。

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