少し余裕ができ、視野が広がるのが入社3年目。会社の仕事やそこにいる人たち、そこで自分は何ができるのかが具体的に見えてきて、入社時に抱いていたのとはまったく違うビジョンが出てきます。それに合わせて軌道修正する時期が3年目なのです。
本連載は、山元賢治著、書籍『選ばれ続けるリーダーの条件』(中経出版)から一部抜粋、編集しています。
グローバルの波の中で、仕組みや慣習もものすごいスピードで変わっていきます。日本企業のあり方や個人の働き方も、従来のままではいられない。刻々と変化する世界で、変わらず求められる真のリーダーの条件とは何か? 外資系トップ企業で30年活躍した経験を、次世代のリーダーに伝える1冊です。
アップル、オラクル、IBMやEMCなど、30年間外資系トップ企業で働き、ビジネス界の巨人と肩を並べてきた山元賢治氏が大切にするのは、誰からも「選ばれる」人が持っているルールです。
「選ばれる人は、目先のテクニックに走らず、もっとも守るべき“原則”を理解し、日々実践できるかどうかで決まる」
未来のリーダーを目指す人、リーダーとして頼られる人間になりたい人に読んでほしい1冊です。
少し余裕ができ、視野が広がるのが入社3年目です。
2年目はまだ実力がそれほどありませんから、余裕どころではありません。1年目の社員がすごい勢いで迫ってきます。下から突き上げられるような感覚です。
しかし高い意識を持って仕事をしていれば、3年目に入るとそれなりに実力がついているはずです。「この仕事だったら彼に任せよう」というようなケースも出てくるでしょう。
また、仕事に励んでいると、本当に一瞬ですが3年という時間にはそれなりの長さがあります。3年の間にはさまざまなことが起こります。多少の成功も失敗も挫折も、経験したはずです。その経験の分、落ち着きも出てきます。
そこで必要なのは、次のビジョンを考えることです。
入社時、新しいスーツを着て出社したときにも「あれをやりたい」「こんな仕事をしてみたい」など、いろいろ期待を膨らませたと思います。しかし、まだ何の経験もない段階なので、大抵は現実とそぐわない夢を抱いているものです。
しかし3年目になると、会社にはどういう仕事があり、そこにどういう人がいて自分がどういうことができるかが、具体性をもって見えてきます。
そこで「次はこういう部門に行きたい」とか「こういう仕事をしてみたい」という、入社時に抱いていたのとはまったく違うビジョンが出てきます。
新しいビジョンに合わせてこうなりたいという「To Be」をバージョンアップし、それに向けて選ばれていくように軌道修正する時期が3年目です。
ただ、ここで一番売上が多い部門やいわゆる「花形部署」など、会社の中でも安全なエリアに身を寄せようとする人が多いのは疑問です。
こういう部署は一番大事なお客さまがついていたり、優秀な社員が集まっていたりするなど、スポットライトを浴びやすくなっています。憧れを抱く気持ちは理解できます。
しかし、こうした部門にだけ優秀な社員が集まると、社内でイノベーションが生まれにくくなり、企業としての力が弱まっていきます。
企業としては新しい事業を行う部門に優秀な社員が欲しいものですし、個人としてもそうした部門に行ったほうが自分の力を伸ばす機会が多くあるはずです。
欧米では、優秀なスタッフが新規事業の部門に行きたがります。自分を守ってくれるところではなく、自分をエキサイトさせてくれる環境を求めているのです。
新しいビジョンが見える一方、会社における自分の現実がクリアに見えてくるのも3年目くらいからでしょう。
自分の力がいったいどの程度のものなのか、3年目になるとおおよそ分かってくると思います。今の会社で何ができそうか、何ができそうもないのかが分かってきますし、会社でのゴールイメージもうっすら見えてくるかもしれません。
3年目になると、選ばれる人と選ばれない人の間ですでに差がついています。選ばれている人は、おそらく自分で分かっているはずです。自分が選ばれていないと感じていたら、それは危険信号です。
それまでの2年間の成果が、3年目になると如実に表れます。最初の2年間はロケットスタートを心がけ、とにかく全力で走ること。その2年間の違いがその後40年の違いになると思ってください。
また、会社の現実と会社における自分の現実が見えてくるため、「転職」という選択肢が頭をもたげてくるのもこの頃です。
「会社は3日目、3カ月目、3年目で辞めたくなる」という言葉があります。3日目、3カ月目というのは、さすがに自分が安易に抱いた理想と直面した現実とのギャップによるものだと思いますが、会社の現実と自分の現実がクリアに見えてくる3年目に辞めたくなるというのは、それなりに理由があるのでしょう。
選ばれていないことが分かって逃げで転職を考える人もいますし、今の会社ではできないことがやりたくなって前向きに転職する人もいるでしょう。
いずれにしても、次のビジョンを考える時期が3年目。そこで逃げではなく、新たなチャレンジができるように、入社からの2年間を濃密に過ごしてください。
山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。2004年にスティーブ・ジョブズに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任し、現在、(株)コミュニカ代表取締役。(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。私塾「山元塾」を開講。
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