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インターネットイニシアティブ(IIJ) 鈴木幸一代表取締役社長 「もっと早くこういう時代が来て欲しかった」

ZDNet 商用ベースでのIPv6サービスも開始していますが,IPv6にはどんな可能性があるとお考えですか?

「市場が1つのスケールに到達したという意味で,昨年はターニングポイントだった」
鈴木 政府のIT会議や首相演説などで話題にもなって,ずいぶん注目されるようになりましたが,これもIIJは長い間取り組んできた技術。社会への浸透度という意味ではまだこれからだと思っています。

 IPv6は面白いですよ。これはアドレス空間の限界という話だけじゃなくて,何にでもつながることが面白い。誰でも何でもつながるとなると,ネットワークの利用方法に大きな変化があると思う。

 ただ,僕ら自身でIPv6のアプリケーション開発をやるというのはちょっと違いますね。これは,利用者側が自社の強みを活かしながら,いろいろと考えることで普及すると思う。IIJでは何かをやりたいという人に,インフラサービスとしてIPv6を提供できるようにしている。

ZDNet こうした諸々の動きを踏まえて昨年を振り返ってみると,全体としてはどんな年でしたか?

鈴木 昨年は,クロスウェイブの広域LANサービスのような新世代型の通信サービス市場にNTTさんなども乗り出し,一挙にマーケットが大きくなってきて,市場のスケーラビリティに変化があった。そういう意味で,昨年は1つの区切り目だったと思います。その年がどんな年かなんてことは後から見ないと分からないけれど,情報通信を使う側も提供する側も,1つのスケールに到達したという意味で,ターニングポイントだったと言えるかもしれません。

 たとえばこれからは,P2Pや画像,動画配信なんかを利用して,子供の写真を撮って,それを「おばあちゃん,元気?」という具合に,コミュニケーションしたい相手に送ってみたりと,いろんなことがもっと自由で自然にできると思う。僕ももっと若かったらいろいろやってたと思うよ(笑い)

 現実は動いているし,僕らの考えも動いているけれど……2001年は,デジタル通信の可能性が100だとすれば,それまで2くらいだったものが,15くらいまでは使えるようになったかなと。それは大きな変化だと思う。

ZDNet では今年は,さらにどういった変化が起こるでしょう?

鈴木 企業向けという意味では,もうちょっとアウトソーシングの動きが出てくると思う。企業のシステムを,ネットワークへのアクセシビリティやリーチャビリティのあるところに出していくというふうになって,それが企業の新しい関係を作っていくんじゃないかと思います。

 個人なら,10GBものデータを当たり前のように扱うようになるわけでしょう。そうなると,キャッシュか何かで近所に置くCDNがいいのか,あるいは……と,技術によっていろんなやり方があると思います。

ZDNet セキュリティの問題が指摘されるようになりましたが。

 うん,だからそれは予防すればいい。ウイルスは人間の伝染病とは違って,2,3時間で世界中に広がってしまうけれど,それはきちっと予防をすればいい。われわれとしても,セーフティメールやファイアウォールサービス,IDSサービスなど,ネットワークを守るためのツールを用意しています。

ZDNet IIJとしてはどういった展開を考えていますか?

 IIJには元々コーポレートカスタマーが多く,またCATV事業者さんなどの上位接続にもずいぶん使ってもらっています。これからも,ブロードバンドという大きな波が止まるとは思えない。そこでこれからの時代にどういうインフラサービスが必要なのか,その形が見えてくるのではないかと思います。それに応じて,技術開発に投資していく。

 われわれはこれまで10年,技術のリーダーシップを取ってきました。先に触れた広域LANサービス,それにCDNもそうですね。CDNなんかはキャッシュや課金,そういったもの全部が関わってくる。それをどう統合していくか,ハブはどのように運用していくか。さまざまなチャレンジがあるが,お客さんにはIIJに預ければ大丈夫だよ,というふうにしたい。

 業界全体のことで言えば,ブロードバンドにしろIPv6にしろ,画期的な技術には何かきっかけが必要です。たとえばその1つがe-Japan構想で,これで政府の仕組みが変わるし,企業や個人の生活の仕方も変わる。ただ,これまでやってきたのでだいたい分かるんですが,技術があるということと,それが安定して使えるということはまた別の話ですよ。

実は取材当日,鈴木社長はあいにく風邪とのことだったが,それをおしてのインタビューとなった。休む間もなく新年も,1月2日から早々に業務のため米国に渡ったという。「何せ向こう(=北米)の人は正月から働いていますから」。この10年ほど年末年始をゆっくり過ごしたことはないという鈴木社長。今年もまた,忙しい年明けとなった。

[聞き手:高橋睦美 ,ITmedia]