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トレンドマイクロ 渡部敏弘代表取締役副社長 「すべてにセキュリティを普及させていくのが会社としての使命」

昨年ほどウイルス関連のニュースが話題となった年はなかった。被害の広がりを受けて,ウイルス対策をはじめとするセキュリティには,かつてないほどの注目が集まっている。ウイルス対策ソリューションの分野で国内トップシェアを誇るトレンドマイクロの渡部敏弘副社長に,セキュリティの向上に向けた取り組みを聞いた。

ZDNet IT不況が言われた1年でしたが,昨年を振り返っていかがですか?

ネットワークが高度化すればセキュリティは不可欠になるという渡部氏
渡部 まずIT業界一般の話ですが,従来型の日本の予算制度では,予算が付いたらそれをどう配分するかが問題でした。帳尻を合わせるため,単価の高いものやプロダクトを提供するというのが典型的な形ですね。予算が本来必要なものかどうかという議論がなく,要するにITゼネコン化,IT道路工事化していたわけです。

 昨年は,ユーザーも政府も,その辺を真剣に見直ししてきた年だと思います。これからは,限られた予算をいかに有効に使うかという段階にきています。有効な投資ができれば,本当の意味でのITの活性化がこれからやって来るでしょう。決してニーズが落ちているわけではありません。その意味で伸びるチャンスはいっぱいあると思います。もちろん,その中で選別も起こるでしょうが。

 また,日本経済自体の根本的な,構造的な不況もありますが,逆に,根本的な不況だからこそ,ネットワーク化や業務の効率化は避けられません。ただ予算があるからITにつぎ込むというのではなく,どのように真剣にネットワーク化やIT化を進めていくかが,おそらく一番大きな鍵になるでしょう。

ZDNet セキュリティ業界は例外ではありませんか? 特にウイルス対策製品は,こう言うのも何ですが,ウイルスの被害が広がったこともあって好調だと思いますが。

渡部 これも今の話と同じです。業務効率を上げるには,きちんとしたネットワークを作らなければいけません。そしてネットワークが高度化すると,今まではそれほど考えなくてもよかったプロテクションやセキュリティが必要になってきます。

 かつては部門ごとにサーバを立て,ネットワークもその部門だけで閉じていたわけです。ところがたとえば会計制度が変わる,決算方式が変わるとなると,手作業ではとても対応しきれません。営業部門,バックオフィスなどが全部つながらなければならない。つなげば当然,危険度が増しますね。そこで,一番分かりやすいアンチウイルスが急速に普及してきた。

 セキュリティの中でもアンチウイルス製品が普及した理由は,これはもうはっきりしています。被害が顕在化して見えますから。まず必要なのは,メールが壊されないことです。また,感染するだけでなく,データを外に持っていくという被害も出てきています。それを考えると,まず初期的な段階としてアンチウイルスに対応していれば,メールに関しては大丈夫であろうという考え方から広がってきていると思います。

 今後,たとえば暗号化なども,何らかの被害が顕在化してくれば急速に普及してくると思います。ですが今の段階では,我々のようなウイルス対策ソリューションが一番大きな分野かなと思います。

ZDNet Code Red,NimdaやBadtransなどが記憶に新しいところですが,昨年は本当にウイルスによる被害が増えました。

渡部 その理由ですが,1つには「対策は被害を受けてからでもいい」という意識があったことが挙げられるでしょう。もう1つ,これまでは帯域が狭かったため,メールに添付された数MB分のデータが届くことすら難しかったと思います。しかし今では帯域が広がり,常時接続が普及して,大きなファイルでも瞬時に送れるという状況になりつつあります。それを背景に被害が加速している部分もあると思います。

ZDNet ではそれを踏まえ,セキュリティ対策の普及に向けて,どういった取り組みを行っていますか?

渡部 まず根っこのところからいうと,1つには,政府をはじめとする各方面に働きかけて,セキュリティ対策に関する法案の草案作成の手助けや啓蒙活動を行っています。

 企業に対しては,広報活動ももちろんありますが,われわれとして一番大きいのは,企業に近い取引先,具体的にはシステムインテグレータやベンダーの営業,マーケティング担当者との情報を密にし,活動を活発化させていくことです。地味なようですが,ユーザーときちんと話ができるところと組んで一緒にやっていくこの方法が,営業戦略的にも,普及という意味からも一番大きいし,ユーザーにとってもいい方法だと思っています。もちろんセミナーや教育制度なども加速させますが。

ZDNet コンシューマーユーザーへの働きかけはどうでしょう?

渡部 2年ほど前ですが,コンシューマーへのセキュリティ普及にはどういう方法がいいんだろうという話をしたことがありました。パッケージももちろんですが,ISP経由で対策,告知していくのが一番大きいルートかなと思います。今ではOCNなどのISPがCMを使って,ウイルス対策の宣伝を行っていますね。2年前では考えられないような展開です。こうしたサービスプロバイダーとの取り組みを,引き続き強化しています。

 ウイルスバスターのパッケージも充実させています。バージョンアップにともない,技術は高度になっていますが,逆にユーザーインタフェースなどは簡単なものにしてきました。2001年は,特にNimda発生以降の3カ月で,一昨年の2倍くらいのパッケージが売れました。これまでのパワーユーザーとは異なるユーザー層が購入しています。その層に向けてパッケージを簡単なものにし,さらに充実させています。

 さらにもう1つ新しい層があります。e-Japan構想では3000万世帯を高速回線でつなぐという計画です。となると,たとえば「インストール? 何じゃ,そりゃ?」という人もつながってくるわけです。そういう人々に向けて提供するのが,これです(と言って,昨年発表した「Trend Micro GateLock X200」を持ち上げる)。

 GateLockにはウイルス対策とパーソナルファイアウォール,不正アクセスに対する侵入検知システム(IDS)の機能が入っています。ぱちっと回線を差し込むだけでOKです。接続していれば,アップデートも自動的に行われます。「ウイルス対策が必要ですよ」と言っても,じゃあどうすればいいのか分からない新しい購買層に対しては,まずこういう形のもので対応していくのが現実的だと思っています。セットトップボックスへの組み込みやOEMなど,いろいろ模索もしていますが。

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[聞き手:高橋睦美 ,ITmedia]