先日、父方の叔母から電話があった。デジカメで取りためた写真が、どこかへいってしまったというのだ。「どこかへいった」って、どこにも行きやしない。壊れたか消したかのどちらかでしょ……。
仕事柄、親戚や友人などから、これ幸いと電話がかかってくる。「ありがたい」と言ってくれる半面、都合よくこき使われているようにも感じるわたし。しかも、身内となると容赦ない。「おごるからっ!」と呼び出され「ごめんねー、ご馳走はないけど」と自宅の夕飯でごまかされてしまうのがオチだ。しかし、そこは親戚同士。おつきあいも大切なので、仕事帰りに叔母の家へ寄ることに。
叔母はノートPCを使っている。旅行や地域のサークル活動に熱心な叔母は、デジカメ片手にいつでもどこかに出かけている。デジカメを使い始めてから2年ほどで、かなりの枚数の写真を撮影したという。写真データは USB 接続の外付け ハードディスク に保存していた(らしい)。写真が見えない理由は、写真データを保存したこのハードディスクが故障してしまったから。ハードディスクのモーター部分が故障しているのか、電源を入れてもディスクの回転音がしない……。
わたし このハードディスク、壊れてるよ。
叔母 あら。直らないの? 写真は大丈夫よね?
わたし これは無理ねぇ。わたしには直せないし、たぶんデータも助けられないよ。
叔母 良かった! 写真は見られるのね。
……データが助けられない、ということ、写真が見られない、ということが頭の中でリンクしていない叔母。
わたし ごめんね、写真も無理。写真はデータとしてこの中に保存されていたんだから。
叔母 でも、印刷はできるのよね?
……加えて、写真が見られない、というのと、印刷できない、というのが頭の中でリンクしていない叔母。ああ、それとも世の中のITリテラシーってこんなものなのか(泣)。
わたし だから無理だってば。
叔母 どうしても印刷したい写真があるの。なんとかならない?
むむ、まだ粘るのか。無理なものは無理だってば。いままでに何度か勧めていたのに、バックアップしていなかった叔母が悪い。思い出は心の中に残っても、失った写真は2度と戻らない。そのことを分かってもらうのに、この後30分近くかかってしまった。さすがにわたしも、落胆する叔母にはかける言葉もない。失うと困るファイル、2度と手に入らない写真など大切なものは、必ずバックアップしてと心から思う。決してあの日には帰れないのだから。
IT関係の仕事をしていると、データ削除の前の状態や、故障前の状態に戻りたいと思うことがある。システム管理者にお願いすれば何とかしてくれると思っている人も多いのだが(怒りに任せて「そのためにオマエが雇われてるんだろ!」と失礼なことを言う人もいる……)、わたしたちだって万能じゃないんだから。削除以前、故障以前の状態に戻して欲しいと頼まれても、それは無理というものだ。あの日、あの時間にはどうやったって戻れない。会社だったら、データが復活しなければ業務に支障をきたすことが多い。損害はバカにならない金額になることもある。
……と、ここまで書いて、ふと思った。ドラえもんのタイムふろしき(Wikipediaへのリンク)が欲しい、と。
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