Microsoftのイベントでビル・クリントン氏がスピーチ 富裕国と貧困国のギャップを埋めようMicrosoft WPC 2010 Report

Microsoftのケビン・ターナーCOOは、クラウドビジネスにおける同社の準備状況をアピールした。ビル・クリントン氏は世界の不平等に対し「わたしたちができることは何か」と問い掛けた。

» 2010年07月15日 14時45分 公開
[谷古宇浩司,ITmedia]

 7月14日(現地時間)、米Microsoftのビジネスパートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference 2010」(WPC 2010)3日目の基調講演が開催された。講演の前半をMicrosoftのCOO(最高執行責任者)であるケビン・ターナー氏が担当し、後半をクリントン財団の創設者であるビル・クリントン氏が引き継いだ。基調講演とは、文字通りイベントの基調を定めるためのもので、今回でいえばMicrosoftが考えるビジネスパートナー施策の方向性を示す内容だ。だが2人の話には視野の広さや関心の所在という点で違いがあり、基調講演の位置付けに不思議な揺らぎをもたらした。

Microsoft COO ケビン・ターナー氏のテンションは最初から最後まで衰えなかった Microsoft COO ケビン・ターナー氏のテンションは最初から最後まで衰えなかった

Microsoftのコマーシャル・クラウドサービス

 「Microsoftを中心としたビジネス上のエコシステムに参加することで、自分たち(=ビジネスパートナー)の会社の売り上げは増加するのだろうか」――ビジネスモデルの変革を迫られるパートナー企業にとって、Microsoftのクラウドビジネス戦略は重要だ。基調講演でターナー氏が担う役割は、クラウドビジネスに対するMicrosoftの準備状況を世界中のビジネスパートナーに具体的な形で示すことだ。

 ビジネスパートナーの不安を払しょくするためにもターナー氏は、Microsoftの全製品がクラウドビジネスのポートフィリオにうまく当てはまる絵を描いた。

Microsoftのコマーシャル・クラウドサービス Microsoftのコマーシャル・クラウドサービス

 このスライドのタイトルは「Our Commercial Cloud Services」だ。上部がオンラインサービスの領域、下部がパッケージ製品の領域と考えればいい。上部には「Office Web Apps」に始まるさまざまなオンラインサービスがランダムに置かれており、下部は「生産性」から「プラットフォーム」に至るMicrosoftのパッケージ製品がマッピングされている。ここから読み取れるメッセージはこうだ。

 「Microsoftはクラウドビジネスに対する準備を完ぺきに整えている」

 ただし、ビジネスの基盤を全面的にオンラインサービスに移行させるという性急なものではなく、オンプレミスのビジネスも継続していくという留保が付いている。

 WPC 2010の期間中、日本から招待されたビジネスパートナー数社に話を聞いたところ、彼らは多かれ少なかれビジネスモデルの変化に直面しているという共通の危機感を持っていた。彼らの多くは、情報システムの構築を事業の中心に据えている。

 2009年、Microsoftはオンラインサービスのセット商品である「BPOS」(Business Productivity Online Suite)をリリースし、ビジネスパートナーを募り始めた。このサービスは1ユーザー当たり月額1044円、5シートから購入できる商品であり、同社の従来のパッケージソフトウェアとは異質なものだ。これまでシステム構築で数百万〜数千万円の取引をしてきた日本のビジネスパートナーたちにとって、取り扱いが難しい商品であることは確かだ。取引の規模が違うのである。

 クラウドビジネスは次に乗るべき潮流であるかもしれない。しかし、従来のビジネス資産を放棄して全面的に移行するにはリスクが大きすぎる。彼らが構築した顧客企業の情報システムも資産として存在している。「一気にクラウド環境へ」という提案を顧客企業にするわけにはいかない。現実的にはこんなジレンマが存在している。

 これは日本に限らず、他国でも同じ状況だ。ターナー氏が提示するMicrosoftのクラウド戦略は、オンラインとオンプレミスの併存という形にならざるを得なかったというわけだ。

世界の不平等に対し、IT企業ができること

 ターナー氏はビジネスをゲームに例えた。ビジネスプランを「ゲームプラン」と表現し、幾つかのライバル企業を引き合いに出して、「このゲームはまだ始まったばかりだ」と気炎を上げていた。また「わたしは競争が大好きだ」という強烈なアピールもあった。ターナー氏にとってビジネスとは、勝つか負けるかのゲームだといえる。

 ターナー氏の後を継いだビル・クリントン氏のささやかな講演は、ターナー氏のビジネスライクな内容とは異なる視点で、IT業界の関係者にメッセージを送るものだった。

 政治的・経済的に不安定であり、不条理ともいえる不平等がまかり通る世界の現状に対し、富裕国で生活し、さらなる富の蓄積にまい進しようとしているWPC 2010の参加者たちができることは何か。クリントン氏は「今からでも遅くはない。遅いということはないのだ」とビジネスパートナーを鼓舞したターナー氏のメッセージを、貧困国の現状に対する取り組みに適用した。「今からでも遅くはないのだ」と。

ビル・クリントン氏は「世界の半分は人類の進歩に参加できていない」とコメント ビル・クリントン氏は「世界の半分は人類の進歩に参加できていない」とコメント

 「現代は人類にとって、最も技術革新が速い時代だといえる。しかし、技術革新をけん引し、その恩恵にあずかっているのは世界の半分にも満たない」とクリントン氏は言う。技術革新がある国の富を、そしてその国で生活する人々の幸福感を増やすことに貢献できるのは、人々が日々蓄積する努力を、社会的な利益へと漸進的に転換できる社会的、政治的、経済的システムが安定稼働しているからだ。

 多くの貧困国では、そのシステムがうまく動いていないか、存在しない。世界の不平等、不公平に対し、IT企業は何ができるのか。クリントン氏は「ビジネスプロセスの変革について積み重ねた議論の成果をビジネスだけではなく、貧困国の現状を変革するためにも適用できるのではないか」と提案した。また、「最先端技術の適用により、富裕国の富の一部を非常に手軽に貧困国へ移管することも可能になるはずだ」と話した。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ