取材先の企業からは、次のような生の状況を示す資料も見せてもらった。固有名詞などは伏せ、紹介しておこうと思う。
必要備品リストの一覧表も見せてもらった。確保できていない物資は、ポリタンク、水のいらないシャンプー、飲料水、米などであることが分かった。福祉介護サービスに必要なタオル類は、中古でも確保に奔走していた。
また、一連の資料からは、近隣のほかの事業者が受け入れ可能かどうかの情報共有も行っていた。同業者同士、福祉介護を支えるネットワークが出来つつあることが分かった。
この被災企業には東北各地から、生の声も届いていた。以下にその要旨をまとめてみた。
被災地では多くの犠牲者が、生きたいと強く思いながらも、尊い命を落とした。その一方で、日本は年間3万人もの人が自ら命を絶つ、いわゆる「自殺大国」でもある。人はひとりで生きているように思う時があるが、この震災で改めて実感した。人は人と支えあって生きている。
あなたは、これまで隣に住んでいる人とあいさつすら交わさなかったかもしれないが、難しいことは言わない。「おはようございます」「こんばんは」「ありがとう」「大丈夫?」「手を貸しましょうか?」という、ごく簡単なあいさつ・声掛けから始めよう。相手からあいさつや返事がないこともあるだろうが、続けてみよう。相手が変わっていくのが分かることだろう。
一見すると自分のことしか考えていないように思える高校生も、「最近の若い者は……」と嘆いていた年配も、避難所では互いを思いやり支え合って生きている。性別もそうだ。偏見や先入観もなくしていこう。思い込みは相手を遠ざける。相手とともに歩む思いやりを持ってみよう。被災地でも、職場でも、家庭でも、今一度、これまでの自分を見つめ直してみよう。
日本には多くの外国人が住んでいる。彼らの多くも被災したが、新聞の報道では、インドやパキスタンの人たちが被災地の避難所に駆け付け、炊き出しをしてくれている様子が伝えられている。もちろん、海外各国から救援や支援の手が差し伸べられているのはご存じの通りだ。
海外では、この瞬間も、どこかでだれかのライフルが尊い命を奪っている。互いに向け合うべきものは銃口ではない。ナイフの切先でもミサイルの照準でもない。お互いに向け合うべきものは、尊重の念と差し伸べる手だ。この震災に直面して改めてそう思う。
米国の詩人、ウォルト・ホイットマンは詩集「草の葉」でこう言う。「寒さに震えた者ほど太陽の暖かさを感じる。人生の悩みをくぐった者ほど、生命の尊さを知る」と。これで本連載は最終回となる。最後にスペインの作家、ミゲル・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」の一節を借りたい。
「生命のある限り希望はある」
日本マネジメント総合研究所では2011年4月末まで、企業規模・団体の規模にかかわらず、災害対策に必要な相談やアドバイスなどの危機管理支援コンサルティングを無償提供することを決定しました。メール、電話、FAX、郵便で受け付け、時間の許す限り対応します。
日本マネジメント総合研究所 理事長・戸村智憲
URL:http://www.jmri.jp/ Mail:info@jmri.jp
〒146-0094
東京都大田区東矢口2-16-18 クレストUビル302
TEL:03(3750)8722 FAX:050(1402)5157
日本マネジメント総合研究所理事長。早大卒、米国MBA修了、国連勤務にて国連内部監査業務の専門官などを担当。企業役員として監査統括、人事総務統括、(株)アシスト顧問、JA長野中央会顧問、岡山大学大学院非常勤講師などを歴任する。現在、企業や医療福祉機関、農協などのリスク管理・危機管理を指導している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.