サービス事業に活路を求める富士通(第1回)田中克己の「ニッポンのIT企業」(2/2 ページ)

» 2012年10月23日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]
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落ち込むSIビジネス

 問題は、サービス事業の主力だったソリューション/SIの売り上げが、08年度の9115億円から11年度に8248億円に減収していることだ。富士通には約2万7000人(本社に約6000人弱、SE子会社に約2万1000人強)のSEがおり、その6割から7割がソリューション/SIに携わっていると思われる。しかも、会員約120社で組織する富士通系ソフトウェアグループ(FSA)をはじめとする協力会社があり、その発注規模は4万人月になる。だが、売り上げは増えない状況にある。

サービス事業の業績推移(単位:億円) サービス事業の業績推移(単位:億円)

 そうした中で、富士通は2012年4月に営業・SEの組織を再び分けるとともに、全国各地にあった地域SE子会社を東日本、西日本、九州の3つに統合・再編した。地域SE子会社の東日本が約4500人、西日本が約3700人、九州が約1300人の合計約9500人の所帯になる。残り約1万1000人が在籍する金融など業種SE子会社やソフト開発会社などは今回の再編の対象外だったが、いずれにしろくくりを大きくしたことで、柔軟な人員配置を可能にするなど、開発効率化を高められる。複数のSE子会社が同じような機能を抱えるといった無駄もなくせる。

 それ以上に効果を期待しているのが、富士通グループ内での開発量を増やし、業務ノウハウを蓄積することだろう。これまで開発・運用工程から生まれる業種ノウハウは協力会社に貯まり、富士通内に完璧に蓄積できなかったという。「協力会社に丸投げをしない。SEを顧客フロント、つまり仕事を取りにいく人と作る人に分ける」(上嶋常務)。おそらく、本社SEが顧客フロントの営業(公共、金融は開発も担当)、SE子会社のSE(地域ユーザーは営業も担う)が主に開発を担当する。

 ソリューション/SIが減収しているのに対して、インフラサービスの売り上げも07年度の1兆7395億円から11年度に1兆5464億円と減少している。こうしたITインフラの工業化、クラウドサービスが一段と進展すれば、情報システムを一から作り上げる案件はさらに減る。SE部隊が標準的な業種別のソリューション商品を整備していけば、開発効率化がさらに進み、そのことも影響する。

 そうなれば、開発を担当するSEを、クラウドサービスやインフラサービスに振り向けることに迫られるだろう。だが、富士通は将来の姿、つまりSIとクラウドサービス、インフラサービスの売り上げ比率がはっきりと見えているわけではない。実は、サービス事業は、3人の役員が分担で担当している。SIは上嶋常務、ミドルウエアやクラウドサービスを担当するソフトウェアインテグレーションは山中明執行役員常務、ITインフラサービスビジネスは工藤義一執行役常務である。

 山本社長の言う「テクノロジーをベースにしたサービスモデル」を誰が考えるのだろう。

一期一会

 「ユーザーの言っていることを実現すること」。上嶋常務はSEの役割をそう考えている。もちろん、期待した以上のものを提案、実現するために、ユーザーを理解し、業務ノウハウを蓄えようとしている。「業務のプロとして、経営の話までできるようにする」と上嶋常務は意気込むが、業務ノウハウは協力会社にたまっていたケースも少なくない。

 そこで、上嶋常務が考えたのは「きづかい」「おもてなし」だ。人間力とも表現する。競合他社、とりわけIBMを意識しての発言だろうが、それをどんな形で外から分かるようにするのか。一日も早く、具体的な姿を見せてくれるのを楽しみにしている。

「田中克己の『ニッポンのIT企業』」 連載の過去記事はこちらをチェック!


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