企業の意思決定、勝敗を分けるのは?ガートナー BI&情報活用 サミット 2013 リポート

ビッグデータや情報分析などをテーマにしたガートナー ジャパンの年次カンファレンスが開幕した。初日のオープニング講演では、志賀リサーチ・バイスプレジデントが、企業の意思決定の勘所を解説した。

» 2013年05月27日 17時29分 公開
[伏見学,ITmedia]

 IT調査会社のガートナー ジャパンは5月27日〜28日の日程で、企業の経営層や情報システム部門、マーケティング部門などに向けた年次カンファレンス「ガートナー ビジネス・インテリジェンス&情報活用 サミット 2013」を開催している。

 初日のオープニングでは、同社 リサーチ・バイスプレジデントの志賀嘉津士氏が登壇し、「イノベイティブな意思決定とは何か」と題した基調講演を行った。志賀氏は「企業内の意思決定においてソーシャルが重要な役割を果たす」と強調した。

意思決定を支援するテクノロジーとは

 企業における意思決定とは何か。米国の経営学者であるイゴール・アンゾフ教授によると、意思決定には「戦術的意思決定」「管理的意思決定」「戦略的意思決定」の3つのレイヤがあるという。

ガートナー リサーチ リサーチ・バイスプレジデントの志賀嘉津士氏 ガートナー リサーチ リサーチ・バイスプレジデントの志賀嘉津士氏

 戦略的意思決定は、経営者など高いレベルでの意思決定であり、企業合併や新分野進出など企業全体にかかわる領域である。管理的意思決定は、主にミドルマネジメントが行うもので、組織編成して目標を与えて実行させることや、資材の調達方法を考えることなどが該当する。戦術的意思決定は、主にロワーマネジメントが対象となる。与えられた目標や業務の仕方を前提として、スケジュールの決定や資材調達量の決定など、実際の業務を遂行するための問題に対する意思決定である。これら3つの中で「戦術的意思決定はITによる自動化が与しやすい領域だ」と志賀氏は説明する。

 では、それぞれの領域に共通する、勝敗の帰趨を決める意思決定に必要な要素とは何だろうか。志賀氏は情報の「量」「質」「分析」を挙げる。自社内だけでなく社外(競合)の情報を十分に持ち合わせていることに加えて、特に重要なのが「過去の成功体験などのバイアスにかかっていない、正しい分析を行うこと」(志賀氏)だという。

 こうした勝つための意思決定を「イノベイティブな意思決定」とする。イノベイティブな意思決定とは、これまでできなかったことを可能にした意思決定手法であり、ソーシャルネットワーキングやコラボレーションの機能、意思決定支援のツールなど、ITによって多面的な情報で効果的な判断材料を提供、再利用するものと同社は定義する。この意思決定を支えるテクノロジーこそが、同社が提唱する「ソーシャル」「モバイル」「インフォメーション」「クラウド」という4つの力の結節(Nexus of Forces)なのだという。

 具体例として、国際送金サービスを提供する米MoneyGramでは、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)と検知システムを組み合わせて不正取引を摘発した。これまで同社では、既存の詐欺発見システムやマネーロンダリング検知プログラムを導入していたものの、新手の詐欺手法に対処できていなかった。そこで、トランザクション分析で異常パターンを検出するようにしたほか、ソーシャルネットワーク分析で送金者と受取人の人間関係の妥当性をチェックした。これにより、年間3700万ドル以上の詐欺取引を阻止したほか、不正取引のクレームが72%減少、不正検知率が40%増加したという。

社内にソーシャルネットワークを定着させよ

 最後に、企業がイノベイティブな意思決定を行うにあたり、IT部門はどう対応すべきなのか。「データサイエンティストの育成が重要だ」と志賀氏は述べる。データサイエンティストの役割は、ビジネス部門と共同でパターン検出、グラフ分析、統計分析などのデータマイニング手法を用いてビジネス課題に対応することである。しかしながら、高いスキルが要求されるため人材が不足しているのが現状だ。そうした中、スプレッドシートのように簡単な操作が可能な分析ツールを用いて、社員のデータ分析スキルを底上げする方法もあるという。

 社内人材やビジネスの透明化、意見やアイデアを活発に交換できる土壌作りとしてソーシャル型コミュニティーを定着させることも必要だとする。「社内ソーシャルネットワークの定着がより良い企業の意思決定支援につながる。そのためには、透明性の高い意思決定を支持し、企業文化の変革を支援しようとする経営幹部の関与を引き出すことが不可欠だ」と志賀氏は力を込めた。

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