地域の暮らしを見守る活動にタブレット、佐賀が挑む社会福祉の未来とは?地方自治体のIT活用探訪

地域の生活を見守る民生委員や児童委員の活動にタブレット端末を活用しようという実証実験が佐賀県で行われている。地域福祉が抱える課題の解決に多くの可能性を秘めている――県CIOの森本登志男氏は語る。

» 2014年03月26日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 2013年度から「ICT利活用推進計画」を推進している佐賀県。今回は同計画の5つのテーマのうち、「安心・安全な県民生活の実現」における施策として2月13日に開始した「民生委員・児童委員におけるタブレット端末の活用実証研究」の狙いを佐賀県最高情報統括監(CIO)の森本登志男氏に聞いた。

地域福祉の砦を守れ!

 この実証研究では佐賀市本庄地区の22人の民生委員と児童委員にタブレット端末を配布し、各委員が専用アプリや地図サービスを利用し、訪問などの業務に活用する。従来は紙で提出していた活動報告をタブレットから入力し、活動報告のデータはクラウド上で保管・管理する。手作業で行っていた活動報告の集計作業も自動化し、業務の効率化と集計ミスなどの低減化を目指す。期間6月末までの予定だ。

 民生委員と児童委員は厚生労働大臣から委嘱される。市町村の担当区域内で住民の生活状態を把握し、健康で安全な日常生活を送るために必要なさまざまなサポートを行い、両委員を兼務するケースは多い。森本氏によれば、民生委員は全国に約30万人がおり、1人の任期は3年。1人で数百世帯を受け持ち、無報酬でその任にあたる。

 委員の業務は、いわば“住民のカルテ”を集めることだという。1回あたりの訪問時間は1時間を超える場合も多く、会話の中で各家庭の状況を把握し、訪問後に活動記録にまとめる。また、生活保護世帯や母子家庭などへの支援では自治体や国との調整役を担うが、支援内容によって所管先が異なり、1人の委員が複数の機関と調整しなければならないことも多い。報告や申請などは基本的に書類ベースだ。委員は住民情報を記した膨大な種類の書類も管理しなくてはならず、紛失など情報セキュリティ上のリスクにも常に晒され、業務上の大きなプレッシャーになっている。

民生委員や児童委員の活動における課題(出典:佐賀県)

 こうした実情に森本氏は、「委員の負担は非常に重く、担い手が少ない。引き継ぎがスムーズにいかず、情報が活用されにくいなどの問題も抱える。委員の善意で成り立っているのが現状」と指摘する。

情報活用の可能性に着目

 実証研究における役割は、佐賀市と佐賀市民生委員児童委員協議会が各委員の活動をサポートし、佐賀県が各機関との調整役を担う。ICT環境ではNTTドコモが通信回線、インテルがタブレット端末、マイクロソフトがクラウドサービスを提供。アプリケーションの開発を地元の木村情報技術が手掛ける。

 研究ではタブレット端末への情報入力とクラウド上で情報を安全に管理する仕組みについて、その有効性を検証する。活動報告の記録や書類の管理における民生委員や児童委員の負担軽減を目指す。スタートから1カ月ほど経過したが、まずタブレット端末のアプリケーションの改良を進めている状況だ。委員の中には高齢者も多く、視認性や操作性の向上のために委員へのヒアリングを繰り返し行って、木村情報技術がより使いやすいユーザーインタフェースの実現に注力しているという。

実証研究で利用するアプリのインタフェースのイメージ(同)

 さらに、今後は蓄積された情報の分析と活用先の可能性についても検討していく。「データを集計したり、分析したりすることで、地域福祉のさまざまな変化につながると期待している。例えば、住民との会話の積み重ねから痴呆の進展具合などが分かるかもしれない」(森本氏)

佐賀県の森本登志男最高情報統括監

 民生委員と児童委員の存在は、地域社会の福祉の維持や向上にとって不可欠といえる。しかし、現状では大きな負担を抱えながら、善意によってかろうじて保たれているのが現状だ。

 「例えば、4年間で委員が2回変わることもあるが、今のままでは情報が引き継がれにくい。新任の委員がまた情報を蓄積しなくてはならず、住民にとっても同じことを繰り返し聞かれるのは嫌に思うだろう。安全に情報を継承していくことができれば、福祉が良い方向に変わっていくものと期待している」と森本氏は話す。

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