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“4Kの痕跡”とは? ソニーとJVCのイベントで気づいた効果(1)麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/2 ページ)

» 2012年03月28日 16時06分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]
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「鮮明にボケる」 4Kの持つ情報量

麻倉氏:もう1つ、イベントで試聴したのが「Eclipse」というサスペンス映画です。男女が遠くから墓場に歩いてくるシーンで、画面はパンフォーカス(すべてに焦点が合っている状態)。こちらは4Kビデオカメラの「RedOne」で撮影したものですが、2Kのままではダウンコンバート映像特有のほわっとした感じになるのに対し、4Kでは極めてくっきり、岩石の表面にある微細な凹凸まで描き出してくれます。さらに岩肌には色の階調感も出てきて質感も向上していました。4Kの情報量が分かります。

 次に背景はアウトフォーカスで男女にのみフォーカスが合っているシーン。2Kで見ると男性が着ているコートは平面的な感じですが、4Kで見ると中に綿が詰まっているような膨らみまで分かります。さらに驚いたのは、言葉はおかしいですが――「ボケの鮮明さ」。監督が被写界深度の浅さを利用して作り出したフォーカス表現の狙いが非常によく分かりました。ちょうどビット落ちのような荒い階調の画が、2Kでは”甘くボケ”てしまうのですが、4Kでは“クッキリとボケて見える”のです。

 パンフォーカスのシーンでは、画面内にある個々のオブジェクトについて質感表現が上がり、一方、ぼけたシーンではボケを明確に表現する。ここでは主人公をフォーカス豊かに前面に押し出し、着ているコートの質感までを浮かび上がらせる。4Kプロジェクターで見ると、ここに制作者のメッセージを読み取ることができます。登場人物が2人いれば、2人の劇中における位置関係や距離感、全体の雰囲気など、情緒的な情報まで読み取れる。単なる解像度の向上だけではありません。4Kは圧倒的に饒舌にメッセージを伝えてくるのです。

――4K制作の新しい映画には有効ということですか

麻倉氏:ほかにも4Kが活躍するシーンはあります。もとが4Kのデジタルシネマに加え、過去の名作のリストアBDも重要なコンテンツでしょう。例えば「サウンド・オブ・ミュージック」は8Kでスキャンし、4Kで修復やマスタリングを行い、最終的に2KにダウンコンバートしてBD化したもの。もともと8Kの解像度があったため、「8K的な痕跡」が存在するのでしょう。また編集では「4Kの編集の痕跡」があり、ハイレゾな痕跡の二重構造になりますね。

 JVCとソニー、どちらのイベントでも「サウンド・オブ・ミュージック」を再生しました。チャプター19のドレミの歌のシーン。ここにはメッセージ性がたくさん込められていまです。

 その前のチャプター18は、マリア先生が家のカーテンを眺めているシーンで始まります。子どもたちが遊びにいく服がない。カーテンをちょうど取り替えるので、それを服にしてしまおうとマリア先生が考えます。チャプター18の後半では、ザルツブルグの街中を闊歩しているのですが、ここでカーテンで作った服を子どもたちが着ています。

 服の図柄が大きいため、2Kプロジェクターでもカーテンの生地を使っていることは分かりますが、しかし質感まではよく分かりません。しかし4Kでは、まさにカーテンで作った服を着ていると分かる細かな質感が見えてきます。そのシーンで語られていることが、はっきりと分かるのです。

 もう1つ感心したのは、果物屋さんの店先にあったトマトです。丸みやツヤが、如実に出ていました。嵐山の映像と同じように、立体的な質感表現については2Kと4Kでは全く違う世界があります。

 チャプター19に入ると、芝生の上に子どもたちとマリア先生が座り、その左側に険しい山並み、奥には空が広がっている場面になります。ここでは芝生の再現性に注目です。2Kではフラットに見える芝生ですが、4Kでは色や質感の違いが分かります。子どもたちの服も明確にカーテン生地であることが分かりますし、遠景に目を向けると山の稜線や木々がリアル。もう少し先に目を向けると、遠景は青がかって見えています。

 これは、空気遠近法といわれるもの。光が大気を通り抜けてくる過程で、さまざまな光の波長のうちブルーだけが残るので空は青く見えるのです。同じように、手前はカラフルでも遠くの山々はブルー一色になって見えるのです。2Kの場合、そのブルーがおとなしく、山々や芝生も作り物のような印象を受けてしまいますが、4Kで見ると個々のオブジェクトが実にリアルで奥行き感も出てくるのです。

 そもそもヘプバーン作品や「ベン・ハー」などの最近のレストア作品は、映画全盛期のフィルムが持つ表現力を最大限に引き出すため、オリジナルネガを使い、ハイレゾスキャンにより多くの情報を取り込んでいます。4Kプロジェクターでは、それらの痕跡を拾い上げ、2Kとは圧倒的に違う映像を見せてくれます。正直、昨年秋に4Kプロジェクターが登場した時は、ここまで差があるとは想像できませんでした。


麻倉氏:もう1つの高画質素材として、IMAXの70mmフィルムがあります。例えば「ダークナイト」は35mmと70mmがチャプターによって混在しており、とくに70mmフィルムの部分が高く評価されてIDGの第1回「ブルーレイ大賞」グランプリを獲りました。ただ、4K上映による違いの大きさは、前述の「エクリプス」や「サウンド・オブ・ミュージック」のほうが大きいですね。IMAXのオリジナルフィルムは2Kにダウンコンバートしても解像度やコントラストがかなり高かったので、2Kから4Kへ上げる“のりしろ”のようなものが小さいのかもしれません。

――次回は現在主流の2K制作コンテンツについて、また4Kを活用した21:9再生の可能性について聞いていきます(→4K活用のシネスコは“劇場の世界”、ソニーとJVCのイベントで気づいた効果)。

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