ITSの現状と将来を知る−−「自動車ITS革命!」書評

» 2004年11月04日 14時33分 公開
[森山和道,ITmedia]
自動車ITS革命! カーメーカーと通信キャリアのテレマティクス&ITS戦略 神尾寿 著 ダイヤモンド社 ISBN:4-478-24098-1

 ITS(高度道路交通システム)は、モータリゼーションの再定義を行う自動車産業全体の切り札だ−−。

 こう主張する本書は、トヨタ、日産、ホンダ、NTTドコモ、KDDIなど車と通信のメインプレイヤーに取材。幅広いITS技術の中でも、情報提供を中心とするテレマティクスと安全技術の2つを軸に、関連する通信サービスの動向に焦点を当ててビジネスの今後を占う1冊だ。

 最近の情報をフォローしているだけではなく、失敗してしまった第1世代テレマティクスなどの分析や、現在の各社ビジネス現状が俯瞰されているので、大づかみに情報を得られる。この業界に興味がある人なら、まず目を通して損はない本といえる。

各社のテレマティクスの違いが成否を分ける

 本書の第1部では、まず「テレマティクス」が解説される。テレマティクスとは、簡単にいえばカーナビの延長線上にある自動車向け情報サービスだ。もっとも、トヨタの「G-BOOK」、日産の「カーウイングス」、ホンダの「インターナビプレミアムクラブ」など、各社それぞれサービスのコンセプトが違い、インタフェースも異なる。そしてそれが、ビジネス上の成否に繋がっている。

 例えばホンダは、テレマティクスを「車で走るためのサービス」と位置付けている。具体的には蓄積された渋滞情報をもとに、渋滞の予測を行うシステムを実現。よりスムーズな運行のサポートを目指している。また、利用料金は車と純正カーナビの価格のなかに含まれており、ランニングコストも発生しない。いちいちカネがかかるトヨタのG-BOOKとは大きく異なっている点だ。

 また、単に車に一方向で情報を提供するだけではなく、車そのものからセンターへと情報を吸い上げるフローティングカー(プローブカー)システムを導入しており、これも渋滞情報に使われている。本書ではホンダのサービスに対し、今後は地域格差への対応や、軽自動車への普及が必要になると分析。また有人対応サービスは他社に比べて弱いのではないかと指摘する。

安全対策、運転補助技術の現状

 昨年くらいから徐々に市場へ導入され始めているカメラやプリクラッシュブレーキなどの安全対策や、運転補助技術について解説されるのが第2部だ。車間維持システム(ACC)や車線維持支援システム(LKA)なども、将来は、現在のパワステ、ABS、エアバッグのように、当たり前のものとなっていくだろうという。

 カメラやセンサーなどを搭載し、アクティブに安全を実現していくためには、車単独ではなく、道路や他の車、歩行者などとも相互間通信を行うことが必要だ。それは車内でも同様で、各種システムが連携して動作しなければならない。センサー専用チップの開発、コストダウンやモジュール化も必要だ。トヨタや日産は「JASPAR」という団体を設立し、車載電子機器のソフトウェアとネットワークの標準化・共通化を目指す。周波数や通信規格の統一も進行中である。

 第3部は車と通信サービスだ。携帯電話はもともと車載電話として始まっている。だが現状、車とケータイの相性はいまひとつだ。いまや肌身離さず持ち歩くものとなったケータイと、必要に応じて乗り込む車。両者の間をうまくインタフェースしてやることが、今後の、車における情報サービス提供の鍵となると思われる。だが、それが何なのかはまだ見えていない。単に“Bluetoothで無線化してつなげばいい”といった、単純なものではないだろう。

一番大きな課題は“コスト”

 ITS技術の大きな課題はコストだ。そして、コストをユーザーに対して分かりやすいメリットとして説明しづらい点にある。人は「安全」や「便利」だけでは、なかなか財布の紐をゆるめないのだ。

 本書でもそこは何度も言及されている。だが、“エンドユーザーへどのようにすれば普及するのか”が本書の興味の対象だと述べているにもかかわらず、本書からは読んでも明快や、具体的なロードマップは見えてこない。だが、少なくとも著者が指摘していることくらいはクリアしないと、シビアな市場の目をくぐりぬけることはできないだろうし、そこは自動車メーカーも自覚しつつあるように思う。市場に投入されてくる技術は、確かに洗練の度を増しているからだ。

 今後、情報サービスはどうなるのだろうか。おそらく、どんどん「繋がる」方向に向かうのだろう。コインパーキング大手のパーク24の「TONIC」は5分間隔で満空情報を提供してくれる(7月15日記事参照)。いすゞとKDDIが共同開発したトラック向けシステム「みまもりくんオンライン」では、エンジン制御コンピュータの情報をセンターに随時送信する。ドライバーのアクセルやブレーキの状況まで分かるため、燃費改善などに使えるという。将来は、この手の技術がもっと有機的に絡み合って、新しいサービスを生み出すのだろう。車の中はもともと情報化が進めやすい空間だ。ユビキタスなサービスも始めやすいかもしれない。

 車、通信の未来に興味があるならば、読んで損はない一冊である。巻頭にはトヨタの渡邉浩之・専務取締役へのインタビューも収録している。

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